それから暫く─────。
とてつもないものを次から次へ齎してくれたハリスはソヨンの隣で高らかに笑っていた。
「ねぇそのにやけ顔何とかならないの!?」
「これが笑わずにいられるか・・・一年もかけた計画に水を差さないでくれ」
「どれが次いでなのかしらよねぇ」
複数の書類を手にほくそ笑むハリスの横でソヨンは呆れ顔だ。
「なっどれもこれもに決まってるだろ!俺のメインはこれだぞ」
婚姻誓約書と書かれた書類をテーブルに叩きつけている。
「これねぇ・・・書くのは構わないんだけど・・・こんな簡単で良い訳!?」
紙切れ一枚。
それは世の理と決してかけ離れたものではないのだが。
「こ・・・れ私に有利よ・・・ね」
ソヨンの読み上げた内容に不服かと返ってきた。
「そんな訳ないわ!父にも会えるし表に出なくて良いのなら何しても良いって事でしょ」
「俺の仕事は手伝ってもらうぞ!でも王妃になれる訳じゃないからこんなものだろう」
「そうは言ってもどこで暮らしても良いとか・・・私結構自由じゃない!?」
「警護と監視は付けるから窮屈にもなるぞ・・・俺は王権を放棄したくて放棄するが、やるべきことは変わらないというか印を持つものである以上変えられないというのが長老達の出してきた条件でもある」
「そ、れ飲んだんだ・・・どんな交渉したの・・・今更に貴方って凄いって思うわ」
畏敬と畏怖とソヨンの表情にハリスはきょとんとしている。
「それをもぎ取るのに一年かけた・・・次代も既に決めてある・・・末の弟だが国の行く末の為には俺よりも適任だ」
どんな人物かを聞こうとしてソヨンは言葉を飲み込んだ。
ハリスの抱えるもの。
未だ想像の域を脱せずそれに関わろうという自分の立ち位置もはっきりしない今。
それらを背中にあるであろうその重圧の大部分をも渡せるというそれだけの人物であるというならそうなのだろうとそれ以上の詮索はせずペンを走らせることに集中したのだった。