どれだけの事をしても手に入らないものがある。
どれだけ想っても立ちはだかる現実は隔てられた身分は越えられないとそう思ってた。
けれど、けれど。
手を差し伸べてこの手を取れと言う。
そんなものそんな事、やにわに信じられるものではない。
夢は幾らでも見よう。
夢なら覚めぬ想いを幾らでも持っていられよう。
そうやってこの一年震える心に蓋をして、子供の事を知った時産むという選択に迷いがなかったのは、夢と現実が一つになる切欠だったから。
夢を見ずとも現実にその子が存在する以上絆は残ると思ったから。
二度と会えない筈の人だった。
二度とこうして会話を出来るほど容易に近づけ無い人だった。
「俺を誰だと思ってる」
不遜な態度は仮面であると相まみえた一瞬に見せられた態度に承知した。
その仮面を引き剥がせないのは、周りに心許せる者があまりに少ないせいだと。
ならば私も盾になろう。
母がそうであった様に。
どんな矛をも止められる盾になって見せよう。
この手を取れと言ったから。
この手を取って貴方と共に生きてみよう。
妻になれと言ったのだから。
婚姻前の聖痕は、後に戻れぬ地獄旅。
そう言った貴方の言葉に激怒した。
平手打ちはその代償。
だが高い代償を払うのは私も同じだと。
「その旅に付き合ってあげる」
不遜には不遜で返そう。
傲岸など二人の間には必要ないのだと貴方がそういうならばそう出来よう。
「この人と行きます」
そう院長様に向かって言いきったソヨンの顔からは迷いが全て消えていたのだった。
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