ありがとうございますとそれ以上の言葉は出なかった。
締め付けられる胸の内に嗚咽にも感じる喉の奥に言葉は張り付いても音に出来ない。
笑っている女史はソヨンの頭を撫でただ黙って抱きしめてまたねと帰っていった。
院長様もまた子供を抱き上げ可愛い子ねとただそれだけ。
メネットの難しい顔が少しだけ気にはなったがこの年齢でまして皆に内緒で子供まで作ってしまった事に監視不行き届き始めなんともかんとも複雑な気分であろうと納得させた。
孤児であると。
この先は将来は自分で決めねばならないという年齢に差し掛かった頃の出来事は、ソヨンにとって大きな大きすぎるほどの分岐点だった。
父に会うことも出来た。
娘と孫と一緒くたに出会い泣き崩れたその人に謝り続けたその人に差し伸べた手を握った時親であると実感した。
母は綺麗な人だった。
父が自慢の写真という数々を見せてくれてその中に今のソヨンとそう変わらない母の身重の頃から最後だという見紛うばかりの姿が写しだされていて。
「お前も綺麗になった・・・母さんに似てきたね」
そやって目を細めるからはにかみでしか返せなかった。
言葉はあまり必要としない別れと再会だった。
今となっては些末な出来事だといつか父の手紙に書かれていた言葉が身に染みた。
会ってしまえばそこから先は解らなくともそれまでの想いをも抱えて生きられる。
大事な人だったのだと。
大事にされていたのだと。
ひとりではなかったと。
一人にはさせてくれないのだと。
隣でハリスが笑っていて。
腕の中の子も。
だからもう一度始めよう。
これが始まり。
「なぁ良い加減キ、ス許してくれないか」
始まりは親愛のチークキス。
腕を拡げたハリスが付けた導火線。
唇へのキスは未だもう少し式まで待ってとそんなことを言って笑ったソヨンの一幕。
─────なぁヒョン幸せって家にあるらしいぜ。
なんだそれ・・・『青い鳥』!?
ヌナの家ってどこなんだろうなぁ・・・少なくともここじゃないのは確かだ。
どうしてそう思う。
ヌナ腹ぁでっくなってたからなぁ・・・あれ・・・は・・・って帰っちゃうの!?
いっ・・・いつだっ・・・
さぁ・・・いつだった・・・か・・・やっぱり帰るの!?
かっ帰るっ!
そっヒョンも幸せになれると良いな!気を付けて帰れよ─────
─────幸せはこの手の中にあった。
─────既に存在している物は気付きにくいものだ。
だから─────
だからきちんと抱きしめて確かめ合わせてくれ─────
─────終幕─────
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