子共がいると聞かされたのはほんの数日前だ。
寝耳に水。
晴天の霹靂。
藪から棒。
と虚を突かれ未だ予想だにしなかった出来事は、アシムによってもたらされた。
「国ではこんな話できないですからね」
「な、に、を・・・」
「だから貴方に子供がいるって言っているのです!聞いてました!?」
「だ・・・れ・・・」
「誰じゃありませんよ!そんなに心当たりがあるのですか!?」
「な・・・」
「ああ、でも全くない訳じゃないですね」
考え込み横を向くアシムに怒鳴り声が飛んだ。
「ある訳ないだろー!!!」
「俺、俺の子・・・」
「彼女の子共です・・・父親は、いないそうなので」
「な・・・」
調査によるとですねとアシムは色々報告を始めたがハリスの耳には入っていない。
自分の手を見つめ拳を握って考え込むハリスは、やがて大きな声を上げた。
「俺の子共―」
呆れ気味のアシムの両腕を掴んで喰ってかかるハリスは興奮気味に言葉を紡ごうとするが声にならず大きな溜息を吐いたアシムに釣られて息をした。
「静かにしてください!外まで聞こえます」
ここはホテルの一室。
ワンフロアーを全て借り切っているとはいえ各部屋前には警護と称した見張りもいる。
その中でも一番奥のまた奥、その角まで連れられてこの話を聞かされていたハリスは、今更に気付いたとアシムの肩を抱いて座り込んだ。
「はぁ、貴方ってもっと冷静だと思っていましたが・・・」
「冷静だろ・・・というかお前俺に何させようとしたか覚えてるだろ」
「覚えてますよ!当然でしょ!嫁をとるなら外からと進言したのは私です!だからって貴方がそんな暴挙に出るとは思っていなかったのも私です」
「仕方ないだろ良いなって思ったんだから!間違ってなかったし・・・」
「順番、というものがあったんじゃないですか」
「俺にそんな余裕ある訳ないだろ!国から出るのも大変なのに」
「見張られてますしねぇ」
「押し付けられるしなぁ」
「・・・今後の事を話し合わなければならないんですけど一緒に暮らしたいですよねぇ」
当たり前だとまた大きな声を出しかけたハリスは、慌てて声を潜めた。
「何か案があるのか」
「・・・彼女の両親亡くなってるじゃないですか」
「だから嫁に来いと言って引っぱたかれたんだ」
「言い方とタイミングがまずかったんでしょうね」
「なんでだ留学も出来たし一石二鳥じゃないか」
「貴方にとってでしょう」
「好意は向こうにもあったぞ」
「あってもタイミングが悪かったって言ってるんです!それより!」
それより彼女の両親について本国との関りを懇々切々と説明し始めたアシムであった。