驚くと聞かされてもこの人は驚かないだろうとソヨンは、思っていた。
そして院長様も。
この場に呼ばれることはこの数か月多岐に渡って想像した。
ただ幸運だったのはソヨン自身の変化があまりにそれはあまりになく奇跡といっても良いほど何も知らずに日々を過ごし指摘されてもあっさりその事実を受け入れられ助けてくれた人もいたからに他ならない。
院長室の前でミナムは、子供だからと他所へ追いやられることを不満そうにしながらも大人しく部屋に戻っていった。
メネットと共にそこに立つソヨンは、深呼吸を一つ。
それでもこの緊張から逃げられるものではないと今一度覚悟を決めていた。
院長様には、ソヨンの出生についてはナ・ソルジュンから説明をされている。
一年前のアルバイトの件も教会では周知の事実。
では、なぜ今、彼が訪問してきたことにこれほど緊張しているのかといえば、一年前の出来事が未だ尾を引いているからに他ならない。
「ソヨン貴女何を聞かれるか解っているのね」
メネットの言葉にソヨンはゆっくり頷いた。
ノックをしたメネットに続いて部屋に入ったソヨンは、ハリスとアシムそして良く良く見知った女性と腕に抱かれた赤ん坊。
それらを見止めやはりと思っていた。
「・・・院長様・・・私の、子共です」
院長先生が口を開く前にソヨンが言いきった。
「一年前、私はこちらの男性と関係を持ちました」
ソヨンの口は滑らかだ。
「その時に出来た子ですが、この子に父親はいない」
「な・・・」
「この子に父親はいません・・・出来てはいけない子だったのです・・・が、産みたかったので生みました!卒業までは女史が預かるとおっしゃってくれたので私は首席で卒業するという条件で子供を預かって頂きました」
それから、それからとソヨンは、そこでいったん息を切った。
「私に留学の話がありました・・・けど学校の友人の問題でそちらがダメになった・・・」
むしろそれが悔しかった。
それが悔しいとソヨンは、泣いた。
泣き出してしまったソヨンのそれでも耐える姿にその場にいた皆が息を飲む中院長様だけは息を吐き出した。
「・・・ソヨナ・・・何から話したら良いのか今の私にはわかりません・・・判りませんが・・・神はいつでも御傍におりましょう・・起きてしまった事実を今更責める気もありませんが貴方はどうしたいのですか」
どうしたいのかと聞かれソヨンは、ハッとした。
どうしたいかそれは考えていなかった。
いや考えてはいた。
父親のいない子供と二人で生きていく為にそれだけを考えまず自分を優先させた。
それが交換条件だったから。
そして何より留学という未知の道へその子と行けることそれを楽しみにもしていた。
卒業という区切りはまだ先だけど少なくともソヨンの計画では子供と二人で生きていくという未来しか見えていなかった。
と。
「あー、もう勝手に決めないでくれるか!俺も悪かったと思ってるから!」
黙って聞いていたハリスが、話に割り込んできたのだった。