貧しい者不憫な者不幸を絵に描いたような者に降って湧くシンデレラストーリーなんて存在しないと現実を決めつけてしまうには自分は恵まれている方だとソヨンは思っている。
両父母が存在しないという変えようのない理を持ち合わせても衣食住と教育と望まなくとも手にある環境と少なからず援助を申し出てくれた人がいて何を気に入られたのかと問えば生き様と返してくれたその人に同じような者は沢山いると返せば結局ははぐらかされたけれど好意に甘えることも出来ているからだ。
「大体ねぇ食べるって基本でしょう。生きるためには食べなくちゃ。食べることが出来るただそれだけで幸せなんだけどそれが解ってなくて困っちゃうのよねぇ」
そんな話を繰り返し聞いたのは高校へ入学するまでの春休みの間。
幼い頃から施設へ援助をしているとあるボランティア団体へ御礼と称した何度目かのアルバイトに出かけた先だった。
「財産があるから幸せってものでもないわ。お金も時間もあり過ぎると余計な事ばかり覚えて困るし仕事は何でも良いけど食べれないというのはダメなのよっ」
愚痴も一見強者の自惚れでそうも思うもののそれもまた真理であると諭されたのは、その人がそれこそ顔から体からグチャグチャのドロドロになって動き回るその人こそがその団体の首領であり本来ならこんな場所に毎日の様にいるべき人ではないと聞かされたからでもあった。
「超が付けられるほどのお嬢様だでなぁ・・・変わってるといえばそれまでだが、儂等にとっては有難いお人なんさ、儂ゃぁ勉強なんてもんはしてこなかったから食べるためにゃぁ出来ることも限られてお前ぇさんの様んな子供をどっかに放っちまいかねなかったんだからなぁ施しゃなんぁ自ぃ慢と煙たぁがる者ぁも勿論いるがぁあんだけのことぉされてこっちがなーんも返せねぇてぇのはそれはそれで悔しいもんさなぁ」
真っ黒い顔で豪快に笑う好々爺もまた。
そうやって考えを明け透けなく話してくれソヨンにとっても祖父の様な人で学が無いと言いながらも面倒見も良く一々が人生の指針でもあった。
「金ぇはあるに越したことはねぇに決まってらぁ子ぉや孫に楽ぅさせてぇってのもな・・・でんぇもあの嬢ちゃんは金ぇは使い方次第だってこーんななーんもねぇとこにこーんだけの畑作っちまうんだからなぁあーあれだばなぁ・・・あ、アル・・・」
「アル・キミア」
「アルケーなんちゃらじゃねっぇか!?」
「同じ意味よ!私の専攻なの!ヨサ(女史)に勧められたんだけど進学したら言語を学ぶつもり!それでいずれは通訳とかやれたらいいんだけどなぁ」
手にしていた鏝(こて)を鍬に持ち替えたソヨンが大きく振りかぶった。
「ほぉな未来ばぁかんげぇ(考え)てんだばえれぇ(偉い)もんだでなぁ」
隣で振りかぶった掘筋はもっと深く頬を膨らませたソヨンはまだまだと笑われた。
「アジョシだって考えてるでしょ!聞いたよ!旅行行くんでしょ」
更に深く掘るべく腰を入れて振り上げたソヨンは、耕しに満足顔だ。
「ぇんだ嬢ちゃんが畑放っぽっても世話ぁしてくれる他人ば雇ってくれる言うんからよーなーんばすることもねぇけんどヨボは街さ行ってみてぇ言うだもんなぁ」
好々爺の指示で作業を変えるソヨンは、頷き視界に入った一団に首を傾げた。
「ぁあ噂をすれば嬢ちゃんじゃねぇんだが・・・今日ば来る予定じゃねがったがなぁ」
「随分大勢ね」
「なんだば視察いうんでねぇか!?嬢ちゃん良くやってんだろ!?」
「ぅーん、でも変わった人たちね・・・他所の国の人っぽい・・・」
そんな数年前の出来事を思い返し、一年前はこの場所に来れなかったことを思い、畑の真ん中で腰を曲げ曲げ指示をしている老人の気付きに手を振り返していたソヨンだった。
※訛りは雰囲気で適当な音で読んでね(;^_^A地域によって読みづらかったらミアン('◇')ゞ
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