「ナ・ソヨンだったねわ・・・たしと・・・おンなじ名前だっ・・・た」
カフェテリアのある4階へ移動していた。
階下と違って清閑さが求められない分普通に会話も出来て中央に巨大なガラス床を備えたフロアは、3階までの吹き抜けが見下ろせ眺望も素晴らしい。
元はどこぞの資産家が道楽と税金対策で避暑地として使用する予定だったモノをン年前の国のゴタゴタで公共施設へとって変えられたのだと聞いたことがあった。
窪んだガラスはプールの名残。
子供でも遊ぶ予定だったのだろう。
吹き抜けの真下もまた円形に区切られ今でも子供用の書架がある遊び場であり上から全てが見渡せる。
その為付近のテーブルでは母親らしき数名が下を見ては時折手を振っていた。
「初めてここへ来たときは、ワンダーランド!って思いましたねー」
サービスカウンターでドリンクを受け取りパノラマの窓に面したテーブルに陣取ったふたりは、どちらともなく顔を見合わせた。
「そうそ・・・れで・・・アルバイトだっけぇ・・・」
「ぁあっはい!以前と同じ内容なんですけどぉ・・・」
尻すぼみな言葉をストローの音で吸わせたナ・ソヨンは、先程までの明るさとは打って変わり気まずそうな上目で隣を仰ぎ、それを暫く見つめていたソヨンは、長めの息を吐いた。
「そーんな顔するって事はさぁ・・・貴女もしっかり覚えてるって事だよ・・・ね」
「・・・ぇえっとぉ・・・・・・・・・は・・・い・・・」
コーヒーを口にしながら微かに舌を震わせた苦みにソヨンの顔が顰められていた。
後味の悪さは、時に食わず嫌いも引き起こす。
素材一つに調理は数多、料理として出された物が果たしてその香味とも限らないのに。
一度付けたレッテルは、なかなか取り除けない。
素材の色形だけで腰が引ける。
一年前の出来事は正にそんな感じ。
ソーサーとぶつかったカップを置くことを止め口に戻したソヨンは、景色に目を移し、けれど苦学生と自負できる自分にピンポイントで高額のバイトは魅力的過ぎて、それだけの努力をしてきたという自負もあるから以前は軽く引き受けられたなどと考えていた。
だけど。
「・・・ねぇぇ・・・相手も同じ・・・だったりする!?」
特異な、少し特異な言語を披露した。
何故それに興味を惹かれたのか何故それを覚えたのか。
そんな深く考えたことも無いほど瑣末な事を、少し、ほんの少し自分を悲観した結果でしかない事をそれに意味を持たせようとした背中は、何を伝えたかったのか。
「は・・・えぃアボジのお仕事です・・・し・・・」
アボジ、ナ・ソルジュンという人物を思い浮かべてソヨンは再び溜息した。
外交官という職に就いている彼は、補佐官という仕事を主としているらしく実情は測り知らないがあちこち外国を飛び回って国内にいる事はほぼないと聞いていた。
初めて見合ったのが一年前。
ナ・ソヨンと知り合って半年あまり互いの身上を吐露する機会も増え、接遇を必する程のパーティーにも関わらず若輩のソヨンを大抜擢してくれた人は穏やかに微笑み興味を惹いてもっと話をしてみたいと思わせられた。
のに、も拘わらず。
「アジョシも当時の事情知ってるんだよねぇ・・・」
「そっ!それでもっ!!!ソヨンssiしかいないって言ったんですっ!!!」
アジョシがと返してソヨンはまた考え込んだ。
右手に蘇る熱。
その答えを持っているであろう人。
それらを思い出し考え込みソヨンは、解ったと返事をしていたのだった。
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