深夜でも煌々と明るい電気の下でリビングを通り抜けるテギョンは、地下へ通じる階段を見下ろして溜息を吐いてから二階へあがって行った。
社長室へ呼び出されたのは夜も押し詰まって来た頃で既にそこに居たシヌに驚き、何だと多少身構えもした。
けれど報告だと聞かされた内容は、企画段階のCM出演に関連するモデルの素行調査とその周囲で画策された捏造スキャンダルを事前に潰したというものだった。
今はまだ良くも悪くもスキャンダルと呼ばれるモノには敏感だ。
ひとの噂もと言われても季節が巡る間の忙しさに感けてもエンターテイナーである以上都度都度提供するものへの評価ひとつでもスキャンダルになり兼ねる。
だからこそ日頃の節制を大事にしている。
だからこそ、コ・ミニョをこの世界に引っ張りこんで良いのかと悩みもした。
今はもう一定の結論を付けている事ではあるが、目に見えない機微にコ・ミニョの泣く姿に打ちのめされた日々は、過去とするにはあまりに生々しい。
そんな事を胸に部屋の扉を開けたテギョンは、カックンと首を傾げた。
「あん!?な、んで!?居るんだ!?」
「あ。ヒョンニム!お帰りなさい!」
電気を点けるつもりで壁に翳した手を下ろしたテギョンは、ミニョに手持ちの封筒を渡してクローゼットへ向かった。
「ミナムオッパに追い出されちゃったので、ここで寝させていただきますっ!」
「寝っ・・・あっぁあそれは構わないが・・・」
段差のあるフローリングの一番下、机の前に敷かれた布団に目を止めたテギョンは、口元を隠しながらミニョを呼んだ。
「何ですかぁ!?」
封筒の中を覗き込んでいたミニョがくるんと振り返ると示された方向へ顔を向け首を傾げた。
「そっちじゃなくてあっちに持って行け」
「ふぇっ!?」
「布団だ!こっちに持って来い」
「えっ・・・ぇえ・・・っと」
バスルームの扉を半分開けたテギョンは、ベッド脇を指さした。
「さっさとしろ!それからその封筒の中のCDをオーディオにセットしておけ」
「ぇあ、解りました!何かお仕事されるのですね!邪魔にならない様にします」
いそいそ立ち上がったミニョの後ろ姿に眉間を寄せたテギョンは、けれど何も言わずバスルームの扉を閉めた。
「あ、ヒョ・・・って、もう聞こえませんね・・・」
水音が聞こえ始めたバスルームを振り返ったミニョは、思い直して封筒からCDを取り出した。
「なんだろ!?新曲!?あ、オッパの歌書けたのかな」
ニンマリ楽しみ顔でオーディオのスイッチを入れたミニョは、流れてきた曲に耳を傾けていたのだった。
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