緩やかな坂道でもガッランッゴロッと転がるタイヤの音が距離さえも長く感じさせて。
あと少し。
そう思って植木の向こうの門扉を立ち止まって見つめたジェルミは、再び出そうとした足を引っ込めていた。
「だーからー、俺じゃねーってのっ!」
「オッパ以外あんな事する人いませーん!私じゃないって言ってくださいっ!!」
「俺のせいだと決めつけるのは良くないっ!ヒョン達だって陰で何してるかなんてわっかんねーだろっ!!!」
あーだこーだと聞こえてくるミナムとミニョの声に首を傾げつつ門扉迄辿り着いたジェルミは、降って湧いたミナムの体と水に固まった。
「えっ、ぉわっ冷っ」
「えっ、わっ、ジェルムっ!!あ、え、どっ」
「あーあひっでーなミニョ・・・ジェルミずぶ濡れじゃん」
ポンポンとジェルミの頭の水滴を落とすミナムは、カックンと落ちた首に合わせて傾いた。
「んーんジェルミくーん聞こえてるかー!?」
暫しミナムの顔を見つめたジェルミは、ハッとしてスーツケースを倒した。
「あーん!?何してんのジェルミ!?」
ガタゴトスーツケースを開いたジェルミは、ガサゴソビニール袋に入った物体を取り出して抱きしめた。
「あー、ぅんん、良かったー・・・無事だー・・し・・・」
頬ずり迄始め、怪訝な顔をしたミナムときょとんとしながら近づいてきたミニョが顔を見合わせた。
「何ですかぁ!?」
「知っらねー・・・ってかよっぽど大事なもんなんじゃねーの!?」
すまし顔で首を傾げたミナムは、グッと胸元に突き付けられた物体に仰け反った。
「なっ・・・え」
「ミナムに借りてったやつだよっ!助かったけど、壊れてたら弁償もんなんだろっ!」
「へっ!?え、あ、そんな事言ったっけ!?」
「言ったのっ!けど、これで濡れてたら俺のせいじゃないよねっ!」
「え、あー・・・」
じっとり四ツ目で見上げられたミニョが、ぎょっとして後退った。
「なっ、え、そっ、オオオオオオッパが悪いんじゃないですかー」
「いっやーホース持って追っかけられるとか思っわねーもん・・・」
「オッパが追いかけてきたんでしょ!ピオッ(合羽)まで着せたじゃないですかー」
ミナムとお揃いのレインコートを引っ張ったミニョは、転がっていたホースを拾った。
「お前がどこ行ったか教えてくれねーからだろっ」
「どこにも行かないって言ってるじゃありませんかぁヒョンニムみたいに聞かないでくださいっ!」
ホースを確認したミニョは、水道に駆け寄り蛇口をひねって水を止めている。
「んな訳ねーじゃん・・・シヌひょんにありがとうなんて絶対ヒョンに内緒だろ!?」
「そっ、それとこれはっ」
「食い物だろ!?」
ミニョの背中に覆い被さったミナムは、また蛇口を捻っている。
「ヒョンそういうとこ抜け目ねーもんなぁ・・・女心解りまくりっていうか・・・ミニョをよく見てるっていうか」
「変なこと言わないでくださいっ!」
「別に良いじゃん!そこに好意があっても食えるもんは貰っとけ!んで俺に寄越せよな」
「だーかーらーオッパが食べちゃったんでしょ!ヒョンニムが食べるとかありえないのですっ!」
「当分甘いもの食うなって言われたのに隠してたお前が悪い」
「やっぱりオッパが食べたんじゃないですかー」
二度三度蛇口の開閉攻防をしたミニョが、ホースを引っ張った。
「おっわ・・・な、カカロリーオフのケーキとか美味くねえと思ったら結構イケたんだよぉ・・・だからどこで買って来たか教えろよー」
ビチャッビチャと足元に零れた水をミナムが数度ジャンプして避けている。
「デパートに新出店されたお菓子屋さんですよー・・・確かにシヌひょんに教えていただきましたけどぉ」
勝ち誇った顔でミニョが笑い、しゃがみこんだミナムは濡れたスニーカーを拭った。
「ダイエット中は食わないってテギョンヒョン極端だからなぁ・・・ダイエット中でも食わなきゃダメだよー」
スーツケースを閉じたジェルミがミナムの腕を取って立ち上がらせている。
「ジェルミもそういう店詳しいんじゃねーの!?」
「新出店は知らなかったけど・・・食べたいなら今から買いに行く!?」
ジェルミの提案にミナムとミニョの見合った顔が綻んでいる。
「行く!」
「行きます!あ、でもの前に!ジェルミお帰りなさい!」
チョコンと頭を下げたミニョの仕種にきょとんとしたジェルミは、有り顔で頷いたミナムに渋い顔を向けながら漸く帰国の報告が出来ていたのだった。
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