「何をしたの!?」
昼日中のスイートルームで開口一番そう聞いたソヨンの前で起き抜けのローブ姿で湯飲みを持ち上げた態度は、まるで絵に描かれた様に優雅で不遜でしかも黙っている姿というのも滅多に人前に曝さない顔に乱れた髪も零れて見えているだけに訊ねている方が躊躇してしまう程なのは、傍から見ているジアとスハの背中をも凍らせていた。
「・・・ったく、手を出すなと言ったわよね!」
返答の無さに厭きれ天井を見上げたソヨンは、ソファに座り直した。
「ソ・ジュノからも電話が掛かって来たのよ・・・ありがとうですって!私っ全然身に覚えがないのよね!!!」
沸々湧き上がっている不満を唇に纏わせ服の皺を伸ばし持ち上げたクッションを突き付けたソヨンは、未だ無表情の顔を睨みつけた。
「兄上の命令だ」
漸く気怠そうに口を開きゆったり置いた湯飲みに茶を組み直す仕種は、ソヨンの態度など意に介しておらず二杯目も優美にその喉に落ちた。
「お前はともかくコ・ミナムという少年が困るのはどうにも我慢できないらしくその前に何とかしろと言われた」
意外な名前に目を見開いたソヨンは、黙って話を聞いている。
「兄上は、その少年に感謝していたぞ・・・・・・もう一度会いたいと・・・ジアがこの世にいられるのは、その少年のお陰だそうだな」
横に向けた顔にさざ波の様に憂いを浮かべたソヨンは、目を閉じて前に向き直った。
「詳しい話は、してくれなかったがな」
「聞かなくて良いわよっ」
溜息と舌打ちともう一度目を閉じたソヨンは、ソファに深く沈み込んだ。
「で、何をどう頼まれたわけ!?」
「お前とカン・シヌの写真を元にスキャンダルが捏造されかけた」
挙げられた手の中にスハがすかさず封筒を渡した。
「あちらの事などどうでも良いが、たかが写真一枚が争いになる可能性もあった・・・お前の存在が兄上の事も含めた禁秘だからだ・・・調べられてはこちらの安定が揺らぐ」
バサリと拡げられた書類と写真にソヨンの視線が釘付けられた。
「我々が動かなくても良いように情報を渡しただけだ」
「それにジュノを使ったわけ!?」
「あいつはコ・ミナムともFグループとも親しいんだろう!?候補者じゃないのか!?」
「そうかもしれないけどそんなの本人達は知らない筈よ・・・それにファン・テギョンだって候補者でしょ」
「あれは自ら外れたんだろう。他所の女を選んで得るべきものも捨てただろ」
「それは権力者の理屈でしょ。身の程を知らないから出来ることもあるのよ」
「それをさせないのが権力者だがな」
一通り目を通したソヨンは、三杯目を注ぎ足した湯飲みを引き寄せた。
「ったく、何でもかんでも自分の思い通りになってる奴と話してると疲れるのよ!」
「いずれもジアが継ぐべきものだ・・・お前がどう思っていようと我々は、ジアを守り抜く為なら何でもするぞ」
唇に当てた湯飲みの淵で目を上げたソヨンは、ジアを横目にテーブルに手を置くとズズッと膝で乗り上げた。
「・・・そ・・・聞きたかったのよ・・・ね、連れ回してる理由あるのよね!?」
手の甲で口元を隠したソヨンは、小声で真摯な目を向けた。
「風向きを変えてやるのも権力者の仕事だからな」
近づいた顔に小声で返されたソヨンは、真実の在りかに頭を抱えていたのだった。
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