振り仰ぐ窓のその先で苦虫を噛み潰しているであろう顔を鼻先で笑いながらも駐車場の車に乗り込み助手席のシートに無造作に投げ出された封筒の中へ持ち込んだものを仕舞い込んだシヌは、ハンドルに倒れ込んでいた。
「ソヨンssiには否定されたけど、まぁ、関係者だろうな・・・」
実際、忠告文は二通りあったのだ。
一通は、封筒から何から首を傾げたくなるほど豪奢な封蝋が押された封書。
もう一通は、ありふれたファンレターに見える封書と。
どちらも宛名だけが書かれた状態でワイパーに挟み込まれていて、どちらにより驚かされたかといえば、ファンレターの方だった。
チェ・ソヨンが何者であるのかという疑問は、既に大まかに把握もできている。
ファン・テギョンの後援者がFグループであるという事実も踏まえれば、それに真っ向から対立出来るだけの力がある人物という素養は、それだけで一般人とはかけ離れているとも思うが、カメラマンとしてのソヨンは、仕事仲間でしかない。
そのソヨンを慮った手紙と談笑している写真を持ってきた男と。
雑誌記者だと言われたが、芸能人に限らずおよそ公人と呼ばれる人達を面白おかしく取り上げることを得意とする誌面に良い印象を持っている筈もなく。
ましてA.N.Jellの不仲説を匂わせ、自分とテギョンを対象にされて。
遠くイタリアまで行って手掛けた仕事を水の泡にはさせられない。
テギョンと確認した想いの数々を無駄にはしたくない。
早々に対策をとソヨンに電話を掛けた矢先に舞い込んできた資料の悉くは、シヌにとって切り札となり得るものばかりだった。
「で・・・もなぁ、ここまで調べられてるって・・・本来知りあっちゃいけない人なんじゃないかと思うよなぁ」
豪奢なものは、自分の行動が事細かに書かれ、微細な仕事についてまで言及されていただけにあの仕事の後の経緯もあってソヨンもあっさり認めてくれた。
けれどファンレターもどきは、まだ企画段階の返事もしていない仕事とその相手と雑誌記者について言及されていて。
「ったく、どこの誰か知らないが、助かったと言えば助かったけ・・・ど・・・」
エンジンをかけたシヌは、記者から聞き出した捏造の経緯とその思惑をどうやってアン社長に説明しようかと考えながらバックミラーに向かって笑顔を作りようやっと仕事場に向かっていたのだった。
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