郊外の森林道路を走り抜ける車の中でミニョからのメールを確認したテギョンは、車載のナビゲート画面を切り替えた。
「コ・ミナムめ今頃起床かよ・・・あー、もっ、俺の頭を返せよな」
深夜まで作業をしても戻らない創造の苛立ちをぶつけてやるつもりが宛も外れていた。
「ったく、あいつがさっさと帰ってくれば余計なものを見なくて済んだんだ」
今朝方の電話を思い起こし、向かう先を思って溜息も深くなるが、対向車も前後車もない通りの樹木の隙間を流れる風と光を心地よく受けながらニンマリしたテギョンは、オーディオのスイッチに触れて流れてくる音に耳を傾け鼻歌を交えた。
「着くまでには思い出せるか・・・」
きっかけなどどこに転がっているかわからない。
ミニョのへっぴり腰を矯正しようとスローテンポで始めた作曲が、いつのまにかポップに変わってミナムのソロ曲となり、依頼されたコンセプトからも大きく外れてしまった。
「クラシカルアレンジ・・・ね・・・」
ミニョのデビューは、曖昧で良い。
A.N.Jellのアイドルとしての立場を守りつつミニョをも守る。
一般人だからと遠慮などしてくれないこの国で有名人への風当たりは一層激しく強くもあって。
二度とスキャンダルには巻き込まない。
巻き込みたくない。
その為には、名を売り顔を売り前面に出る活動など必要ない。
ひそやかに。
密かに。
テギョンが行き届く範囲で。
コ・ミナムは、有名人になりたかった。
母の為。
妹の為。
ではミニョは、コ・ミニョは、どうなのだ。
何度も繰り返した質問を胸に終わりを迎えた曲をリピートし始めた。
見えない未来への希望と決意。
この先これだけ心を砕ける女に出会えるのか、若さゆえの色恋など今が楽しいだけでも良くて、大きな仕事だと見せつけられた下絵を喉から手が出るほど欲しがる理由もない。
ただ説得内容の一々が、テギョンの気持ちを揺らすには十分で。
「決定打を投げ寄越したもんだ・・・」
どこまでも続きそうな長い塀を横目にハンドルを数度切ったテギョンは、私有地と書かれたアプローチへ車を滑り込ませていたのだった。
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