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初まりは平手打ちだった。
それまで例え兄弟は多くとも例え母であったとしても長の子である俺に手を挙げる者など誰一人出会ったこともなく振り上げられた腕が落ちてくるなど微塵も思いつけない。
まして。
そうまして背が地に付こうなど。
一方的に打ちつけられ腫れあがった頬を冷やしながら何故それを避けなかったのかと散々周りの側近達に聞かれたがそれに答えることも出来ず。
何故。
何故という疑問は、何故泣いているのかと彼女にこそぶつけたい質問だ。
圧倒的カリスマ性。
生まれながらにしてそれを持てる者は数少ないと教えられ、彼の前に立つことでそれを実感した幼き日。
隣に並ぶ女は、それを上回るだろうと勝手な想像を膨らませていた。
だから口をついて出た言葉が女の怒りを買ったのだと気付いた時には、とめどない涙に濡らされ。
────何も知らない癖に。
そう何度も言い続ける女の涙の奥で鋭く光る瞳の輝きに惹かれ身動きなど出来なくて。
腹の子を思い煩わなければ、反撃していたかもしれない。
結局兄上が現れて止めてくれた訳だが。
流石に兄が選んだだけの女だったと認めざる負えなくて。
二度目は兄と別れを決めた女が国を出る日だった。
大衆の面前という俺の立場では決してあってはならない場所で。
乾いた音は、ぬるく噛み殺された欠伸に攫われ、外した眼鏡をかけ直す仕種と毅然と上げられ微笑んだ顔に惚れていると悟っていた。
この女が欲しい、と。
国を出る理由は何となく察してはいた。
子が欲しかった兄とこの女を欲しかった兄とそのどちらも与え国を去る女の覚悟と。
そのどれもに踏み込ませない女の背中を見送り、必ず手に入れると誓った。
あれから数年。
追いかけて追い続けて。
手にした筈の女は、心はやらないと言い切って。
憎いと思ったのは、兄だったのか彼女だったのか。
愛を得ている筈の肉体は、まだどこか冷たくて。
恋を恋と知らず、恋を一夜で知り得た兄の陰が、未だに俺に付き纏う。
「何を考えているの!?」
「恋に・・・名づけをしようかと」
「馬鹿なことを貴方の場合一夜の情けよ」
「それは、俺の妻達に失礼だな」
「解っているなら馬鹿なことを考えるんじゃないわ」
「・・・馬鹿な事・・・か・・・」
恋は、一時。
恋とは、一生。
ひとりでも成り立つこの気分を彼女のそれを名付けるなら。
「一生分の恋をしたから兄上は幽閉されているんじゃないのか!?」
「一生分の恋をしたから貴方とこんなことも出来るのよ」
さわやかな愛憎だ。
裏返し。
神に仕える者の心の在り方というべきだろうか。
静かに密やかに心という蒸気を立ち昇らせ風に乗せ。
降り注がれた者に影響があるのかないのかそれさえも神に等しく。
「知っていたか俺はお前がセカイデイチバンニクイ」
知っていると笑うだけの彼女の顔に敵うものを身に欲しいと思っていた。
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