居候の身には、誰が居なくとも家事が仕事だと考えるミニョは、食事の準備をすると言い張ってテギョンもこれに付き合っていた。
「出ましたかぁ!?」
背中に張り付くべっとり感は、ミニョのせいではないものの返事も無く、振り返って一目瞭然な肘を付いたぶすくれ顔に薄ら笑いを浮かべたミニョは、卵の泡だてを続けるべく向きを変えた。
「ったく、あいつはいつもどこで!何を!やってるんだ!!」
向かってくる声の刺々しさに思いなし背中も丸まっていく。
「ええっと、今日は確かユ・ヘイssiが買い物にいくかもしれない・・・と・・・」
「嘘つきと買い物に行ってんならこっちはあの女かよ!」
指摘先は、素性も書き込まれた明らかな男性で、先程までミニョも一緒に見ていたのだから承知している筈なのにテギョンのイライラの矛先を真面に受け止めているミニョは、益々肩を縮こませた。
「俺に散々文句言いやがるくせに自分の管理は出来てるって!?出来てないだろっ!」
「そっ」
「不可抗力って言葉はなぁ俺にも十分当てはまるんだよっ!こんな仕事してればこういう事もあるって事を少しは身に染みただろう!!」
ふだんミナムに揶揄われる鬱憤なのかテギョンのイライラに首を傾げたミニョは、PC越しに目だけを覗かせた。
「何だよ」
「ヒョンは何に怒っているのですかぁ!?」
「あ!?」
「怖い顔しているのはいつもなのですが、皺皺になってます」
何とは無しに上下する視線が蟠ってミニョを見る目を据わらせる。
「お、ま・・・」
「笑ってください!オッパなら心配ないです!何とでもします!」
ミナムに限らずミニョも身贔屓なのは、知っているつもりでも今は面白く無いと思うテギョンは、背中を引いた。
「はあぁ・・・俺なんでお前が好きなんだっけ・・・」
「ぇえっ嫌いなのですか!?」
すっくと立ちあがったミニョの目がウルウルだ。
「変なこと考えるなよっ!大体お前は俺のここは嫌いだとかないのかよ」
「えっそれ聞きます!?」
背凭れに肘を置き斜に構えるテギョンは、スっと引っ込み垂れ下がったミニョの目に口を突き出した。
「聞いてやろうじゃないか」
「ええっと・・・・・・・・・」
卵のかき混ぜ等そっちのけになったミニョは、上に下に顔を動かし、右に左に頬に手を当てた。
「・・・・・・・・・・・・ない・・・です」
「はっ!?」
「うぇーぅん・・・・・・ないです」
拍子が抜ける。
構えてドキドキした分だけ時間を返してくれと思う。
「・・・な・・・い・・・のか!?」
「思いつかないのでないと思います」
あけらかんと間抜け顔のテギョンは、にっこり笑ったミニョを睨みつけ前のめった。
「思いますって事はあるんだろ!!」
「あるかもしれないですけど思いつかないです」
勢いに後退ったミニョは、ヒクリと頬を震わせながら笑っている。
「な、なくちゃだめですかぁ!?」
「・・・・・・無くて良い・・・俺は、100点だった」
「ねーヒョンニム・・・なんでそれ知っているのですかぁ!?」
「前に説明しただろっ」
「そうでしたっけ!?」
「あー、も、俺はお前のそういうところがな」
「好きですか!?」
ミニョも前のめった。
が、どしんと構えたままのテギョンの指に押され額を抑えている。
「生意気なんだよっ!!」
「えー、ちゃんと言ってください!!」
「言ってるだろっ!」
「伝わりまっ・・・っ」
グッと引かれた肩は、ぎょっとする間もおかず、ゆっくり離れた唇を指が滑った。
「ヘラヘラ笑いやがって・・・」
「嬉しいですもの」
「じゃぁ、もっと嬉しくなることをしてやろう!」
テギョンがポケットから取り出した箱を開けた。
「星の鏡!!」
「今日見つけた星だ!大事にしろよ」
「もちろんですっ!」
バタバタとカウンターを回るのももどかしく不意打ち気味に伸びた腕を受け止めてはしゃぐミニョの腰を引寄せながら、こういう役得をもっとミナムから奪いたいと考えているテギョンだった。
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