「ジェイ今日は楽しそうだ」
「そうか!?いつも通りだ」
────撮影中の軽口は、気が散るから一切するな。
初対面にも関わらずそう傲慢に与えた忠告をきっかり守って休憩に入るまで声はかけてこない年上で背中に大きな尻尾でもありそうに人懐こい笑顔を浮かべる同僚の胸を押しやって通り抜けた先にいたスタッフに時間を訊ねたジェイは紙とペンを貰って走り書いたメモを渡していた。
「その辺の廊下にいると思うからここに連れて来てくれる」
きょとんとしながら名前を読み上げたスタッフの肩を叩いた。
「顔ぐらい知ってるだろ!?有名人だって聞いてるけど!?」
嬉々として頷き揚々廊下へ向かったスタッフの今頃お花畑な思考は次どうなるんだろうと苦笑で見送ったジェイは、横でにこにこ笑っている同僚に目を細めた。
「A.N.Jellのコ・ミナムと知り合い!?」
年上風を吹かせるでもなく長幼の序を持て扱うには、年下然と居直り頼りなさそうに振る舞う同僚を寄りそうな眉間で一睨みして踵を廻らせた。
「詮索されたくない!?」
行って来いの状態で慌てた同僚を鼻で笑い、数歩先のテーブルに用意されたポットからお湯を汲み始めた。
「君に興味があるんだけどお茶にも付き合ってくれないって皆が俺に言うんだよねー」
「皆ってほど大勢と仕事したことないだろ」
皮肉も伝わらなければ虚しい。
ふてぶてしさを隠して笑い続ける同僚を更に睨みながらジェイは、カップに口をつけた。
「海外ブランドの専属モデルしてたってだけでも君ってば超有名人だろー!帰国するなりトップ押し退けカバー(表紙)も独占して・・・近づきたい奴は一杯いるよねー」
遠巻きに休憩を享受する今日の撮影に集められたメンバーを見渡した。
「・・・ライバル視だろ・・・あんたもそのひとり!?」
菓子を摘みその場を離れようとしたジェイの袖が人気の無い方へ引っ張られた。
「厳密には違うけど拒否されてるとも思えないから話しかけてるんだよね」
「あんたみたいな奴は嫌いじゃないけどモデル業以外で付き合う気はないつったろ」
間近な顔をじろりと睨みつけたジェイの顔をジッと見つめた同僚は、小さく長い溜息を零した。
「俺がコ・ミニョと知り合いでも!?」
ミナムと知り合いかと聞いた同じ口からミニョの名が出た瞬間ピクリとしたジェイの蟀谷に人差し指が向けられた。
「・・・知ってるのはお前の片割れだろ・・・それにあんたその話オフレコなんじゃねーの!?俺に仕事して欲しいんならお前んとこの事業を何とかすんのが先だろ・・・」
手を払いのけたジェイの鼻息と同時に僅かに背中を向けた同僚も溜息を零した。
「・・・・・・やっぱ調査済みって訳か」
「だから俺に近づいてんだろ」
「・・・旧家のお坊ちゃまに見えないからね」
「家は関係ない・・・とは言わないけどあんたの兄弟はそれ隠してるよな」
「まぁ邪魔くさいっていうか邪魔してる親父や姉貴にうんざりしてるからね」
「お前が何考えてんのか知りたくないけど入れ替わってんなら撮影に集中しろよ」
「誰も気付いてなかったのに気付いちゃうんだもんなぁ」
ほんの数日前の出来事を蒸し返して口を尖らせた青年は、にっこり微笑み直した。
「鋭いよね観察眼」
聞くとも見るともなくテーブルに腰を落ち着けていたジェイの横に並んだ青年が、目を閉じた。
「僕は、片割れから聞かされたハナシ(情報)を有益に使いたい・・・で、考えた・・・蹴落としたい・・・けど追放は生温い・・・抹殺したいんだよねー」
「物騒な話だな」
「協力してよ」
「俺に何の得がある」
「・・・チェ・ソヨンssiがやってることを引き継げる」
動きが止まったジェイへゆったり顔を向けた青年がにっこり笑った。
「顔色変わった!?・・・っていっても化粧で見えないね」
横並びに向き合った顔を先に逸らしたのは青年で睨みつけていたジェイは、軽口に隠しきれていない微かに震える手を見つけていた。
「・・・俺に大胆な勝負を求めてる自覚あるか!?」
「ソヨンssiより僕の方が情報があるだけだって」
おどけた軽口を続ける青年を見つめながらスタジオの入り口を何気なく見たジェイは、背筋を伸ばしていたのだった。