同じ局内で次の仕事に向かったヘイと別れ楽屋でマ室長に事務所に戻ると連絡を入れたミナムは、使った衣装を無造作にバッグに詰め込んでいる途中で触れたポケットから差し込まれたカードを取り出していた。
「何だ!?ファンレター!?」
事務連絡メモにしては、装飾が凝られたカードを不振に思いながらも拡げたミナムは、開け放したドアの前を通りかかった若いスタッフを呼び止めた。
「なぁ第二スタジオって今日何やってるか知ってる!?」
急な質問にも関わらずスラスラ答えたスタッフに礼を言ったミナムは、どうすると考えながら一言『待ってる』と地図が書かれたカードを見つめた。
「待ってんなら地図じゃなくて名っ前っくらい書っけよな・・・っても、ここに入れてる時点でセキュリティ潜ってる奴だよなぁ・・・め・・・んどくせー」
どこかで仕事をしたことのある関係者かとスタッフに訊ねたスタジオは、ミナムにはまったくもって縁のない雑誌の撮影現場だった。
A.N.Jellのコ・ミナムを周りが勝手に見知ってくれるのは有難い。
にしても顔見知り程度の知り合いさえいるとも思えない。
行くべきか、行かざるべきか。
そもそもこんな形で呼びつけるなんてどちら様。
仕事をくれるというならホイホイ行くのがミナムだが、そもそも直接仕事を持ってくる奴なんて限られているしマ室長の小遣い稼ぎを危ういと思いながら付き合っているのもミナムに危機回避の自信があるからだ。
いつもなら。
いつもならこの程度の手紙無視するところだが、宛名が警告音を鳴らす。
「あーもっホントめんどくせー!喧嘩なら幾らでも買ってやるんだけどなぁ・・・」
ガシガシ掻き揚げ崩れた髪を鏡を見て整えた。
時間の指定はない。
待ってる相手も不明。
見なかった事にも出来る。
のに。
「のに・・・なーんでこれを知ってるかって事が気になってしょうっがねー」
バッグを肩に担いだミナムは、右手にカードを持って楽屋を出た。
「第二スタジオ第二スタジ・・・っと」
同じ敷地内でも指定された場所は、建屋が別だった。
階段を下り地下通路を通って隣の建屋に向かっていると徐々にすれ違う人達の着衣の雰囲気が変わり始め、好奇な視線に囁きも加わった。
大熊猫ってこういう気分かなと思いながら揚々と歩いていたミナムは、珍しいのは俺もだとまるで上京者の様に辺りを観察し始めた。
「すっげーこんな場所あったんだ・・・こっち来たことねーからなぁ・・・」
通路の壁に貼りだされたポスターの一枚一枚はどこでも目にし手に入る雑誌の広告だ。
普段ミナムが頻繁に訪れるスタジオの通路にも似た物が貼ってあり番組のプロモーションに使われていて他所の芸能人の活動の様子なども知れるので見てるだけでも楽しいものでミナムは結構観察しがちなのだが、そこにあるものは少し様相が違う。
何が違うといえば、ヒトかモノかだ。
ファッション誌。
季節毎に世界的にも有名なブランドが発表したモードが着こなされ写し出されている。
けれど決してヒトが主役にはなっていない。
同じ芸能人仲間の見知った顔も幾つかはある。
それでも主役はあくまで服やモノであってそれを引き立てているモデルの顔のどれもこれもにインパクトは感じても印象に残るほどではない。
「ヒョンはこういう類(仕事)得意だよなぁ」
うんうん唸りながら独り鑑賞に耽っていたミナムは、目にした雑誌の名前にニヤリと口角を上げて駆けだしていたのだった。
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