ドラマの撮影現場でもあるオープンカフェの一番奥まった席でディスプレイに表示された名前に晴れやかな空を眺めながら向こうの空は白んでる頃かと天候の話を始めたシヌは、やっぱり槍でも降りそうだなとそれをそのまま相手に伝えていた。
「怒らないでください!俺だって静かに暮らしたいんですからっ」
(だったら、波風立てない様にしなさいよ)
「好きで立ててる訳じゃないんですけどね・・・」
(策士的だって言ってるのよ・・・こっそり楽しみたい爺みたいなところがあるでしょ)
「お年寄りに失礼ですよ」
ソヨンが吐き出す息と沈黙にこういうところだと自嘲して謝った。
「すみません、でもそうそう性格は変えられないですよ・・・引いてるつもりで前に出たい欲求もありますから」
だからといってテギョンより前に出ようとは、あの出会いまでは思わなかったなとまた自嘲した。
(出るなとは言わないわ・・・むしろそれ貴方達の仕事じゃ必要不可欠よ・・・気持ち解るから痛い事してるなーと思ってるだけ・・・)
呆れとも慰めともソヨンの言い分は尤もだとシヌは、苦笑した。
「痛いですよね・・・俺も相当痛いですよ・・・いつになったら治るやら・・・」
胸に当てた手にふと目をやり手当とは痛みを和らげる最も原始的な方法だと言ったのは誰だったかとそんな事を考え始めた。
(抉り過ぎる前に止めなさいね・・・って言っても無駄だろうけどさ)
「教えていただいた店で飲んでるだけですけど・・・まぁ、森の隠れ家って雰囲気がとても性に合いましたよ・・・店主も良い人で、貴女の事も心配されてました」
瞬間水を向けられたソヨンが僅かに沈黙したのをスルーしたシヌは、腕に当たるスタッフの手に頷いた。
(ちょっと変わった人達だからね・・・でも何かと頼りになるし口も堅いから)
「貴女の嫁ぎ先と縁が深いみたいですね」
(詮索も趣味だっけ!?)
「純粋な興味でしょ・・・不思議な女性に会いましたから・・・」
(あれもちょっと特別・・・あの娘が間違えず帰る為にそこに店があるらしいわ)
「面白そうな話ですね」
(実際面白いわよ!興味があるなら本人から聞いて!貴方ならすぐ教えてくれるわ)
差し出された台本上の変更箇所と書かれたメモを見るシヌは、OKサインを作って離れていくスタッフの背中を見つめ口元を引き締めた。
「それ・・・で、ジェルミですか!?」
(ええ、ミニョ並みに鈍いって聞いてたし、実際仕事した感想も似たり寄ったりだったんだけど、なかなかどうして勘は良い子・・・よね、で、思い直したの・・・ミナムが加入する前の貴方達の関係ってさ、あの子で持ってたんじゃない!?)
「だとしたら俺達は、ジェルミに感謝すべきでしょうね」
(いちいち言うべきことでもないけどね・・・あの子も無意識だろうから突然お礼なんて言われたら混乱するじゃない)
「では、今まで通りに」
(別に告げ口したい訳じゃないんだけど、これって結局そういう事なのよね・・・あーあ、もう少しスマートに対処してくれないかなぁ)
「そうそう巧くいかないですし、忘れなくて良いって言ったの貴女ですよね」
(他にも女はいるって言っただけよ!相愛なあのふたり見てて楽しいとは思えないだろうし、貴方にしても音楽は、特別なんでしょう!?一緒に暮らすって事はさ、嫌でも見ちゃうんだ・・・・・・から実はマゾとか!?)
クスリと笑うソヨンにシヌも忍び返した。
「どちらかというと主導権とりたいですね」
(静観してるから遅れをとるのよ)
「貶したいんですか!?」
(いいえ、でも貴方達の視線まだ外れないみたいだから心配なだけ)
ギクリとした心臓にシヌの手が戻っていた。
戻したがそれをおくびにも出さず答えるシヌは、鼻先の笑いを堪え目を閉じた。
「ファインダー越しの真実ってやつですか・・・厄介ですねカメラマンて・・・」
(没にした写真の数にしたらたいした事なのよねぇ)
「感謝してます・・・テギョンに見せてくれなくて」
(あんなもの見せたらブチ切れて仕事してくれないでしょ!私には珍しく大きな気を使わされたわ!あっの完璧主義者!!ああまでチェックが厳しいとかっ何様よ!)
愚痴に変わり始めたソヨンの話に俺様だろうなと思ってもそれを口にしなかったシヌは、休憩終了の声にまたと返して通話を終えたのだった。
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