その日。
大きな包み紙を抱えてデッキの階段でヨタついたミナムは、いきなり軽くなったであろう手元にヒョコンと顔を覗かせた。
「あっれ、ヒョン・・・出かけたんじゃなかった!?」
「今っ出るとこだっ・・・れより何だコレ!?」
荷物を支えたテギョンがミナムの頭より上にあるリボンの結び目に目を止めている。
「ああ、今日はバレンタインだからちょっとしたサプライズだよ」
「は!?サプライズ!?お前が何かやるのか!?」
「別に良いだろ!バレンタインだって毎月の記念日と変わらないんだから」
ミナムがテギョンから荷物を受け取り直した。
「・・・・・・特別感がないだろ」
「はぁあ!?何言っちゃってんの!?それってミニョに何かしてほしいって事かぁ!?」
ギロンと鋭くなったテギョンの目元を見たミナムは肩を竦めている。
「あー、はい、はい、ヒョンの理想は私をあげるな訳な」
「そんな事思うかっ」
「んじゃぁ、バレンタインには思わなくても他の日なら思うって事ね」
話しながらすれ違ったふたりは背中で会話を続けた。
「決めつけるなっ」
「ヒョンだって男の子だったのねーって、思っただけだぜー」
「ったく、お前と話してると調子が狂う・・・俺は出かけるけどサプライズならお前の部屋だけでやれよっ」
駆け足でデッキを降りたテギョンは、車のロックを外して乗り込んでいる。
「あー、はいはい、解ってますよ、間違ってもリビングじゃ出来ないから大ー丈ー夫ー」
走り去る車を振り返ったミナムは、ほくそ笑んで宿舎に入っていったのだった。
★゚・:,。゚・:,。☆
「で、どうなったの!?」
ポーンと苺の被り物を放り投げたリンは、ボールの様に一つ蹴飛ばして拾い上げていた。
「どうってなー・・・」
「そのサプライズ、ミナムだけじゃなくてミニョもやったんだろ!?」
風船を手に床に無数に散らばるイチゴ形のぬいぐるみをシヌが拾い上げている。
「そうそう、俺その時宿舎にいてさ、ミナムがミニョとどっちを着るかで揉めてたの知ってるー!」
「白と赤だろ」
「そう、ミニョに白を着せようと思ったら嫌だとか言いやがって!お兄様の言う事が聞けないのかっと揉めたんだ・・・」
ミナムが拾い上げたぬいぐるみをジェルミに投げつけた。
「着るのは問題なかったんだ」
「そりゃぁ、あいつ意外とああいうの好きだぜ!俺と双子ってのもあるけど、同じ格好して写真撮ったり教会で暮らしてた頃はイベントにかこつけて結構やったんだよなぁ」
「今もやってるじゃん」
ぐるりをぬいぐるみで囲まれたテーブルの前では、ジェルミがいそいそ並べたてている。
「今っていうか、最近復活したって感じだけどな・・・俺に双子が出来たからあいつらには悪いが着せ替え人形みたいなもんだろ」
両腕に抱えきれないほどのぬいぐるみを持ったミナムが、ヨタヨタしながらジェルミの頭とテーブルに落とし、シヌも大きなぬいぐるみを二体抱えて戻ってきた。
「ミナム悪い顔してるー」
「お前だって変わらないだろうが!ミニョにじゃなくてお前に作ってる方が多いんだぞ」
「オンマは、僕が言わないと着てくれないんだもん」
「ヒョンの前で着たくねえからだよ!色々思い出すんじゃねーのー」
広いスタジオで高笑いをしたミナム達は、やがてリンの視線の先を見つめたのだった。
★゚・:,。゚・:,。☆
スタジオのドアに手をかけたまま動こうとしないテギョンの袖を引いたミニョは、間近で見おろされ腰を引き寄せられていた。
「って、いうくだらない話をしているんだが、お前どうなんだ!?」
「どう!?って言われましてもー・・・」
ググッと近づくテギョンにミニョの背中が引けている。
「着るのか!?」
「着るというか被っ・・・てほしいですかぁ!?」
胸を押し上げる手元をテギョンが掴み上げた。
「リンは着る気まんまんだよなぁ」
「写真撮りたいだけって言ってましたけどぉ・・・」
ドアノブから手を離したテギョンは、ミニョを両腕で閉じ込めている。
「あれを着て思い出すのは俺じゃなくてお前だよなぁ」
額をくっつけたテギョンがクスクス笑った。
「あ、あれはぁ・・・ヒョ・・・オッパが悪いんじゃありませんかぁ」
ぎょっと目を見開いたミニョは、真っ赤になって俯いている。
「ヒョンニム!・・・食べてくださいっ!・・・って言い返したもんなぁ」
「そっ、わ、だっ・・・」
ニヤニヤするテギョンの口元を慌てて抑えたミニョは、アワアワで顔を覆った。
「今からでも食ってやろうか!?」
あぐっと口を開けたテギョンは、ミニョの掌に噛みついている。
「う・・・も、う食・・・べつくされてます・・・」
「足りないって言ったら!?」
ミニョの手を退け掴み直したテギョンは、指先を咥えた。
「満足する日なんてくるのですかぁ!?」
「随分、生意気なことを仰いますね奥様」
「生意気にしてくださったの旦那様ですよねっ」
ムッとしたミニョの顔に覆い被さろうとしたテギョンは、踵に当たったドアに顔を顰めている。
「アッパもオンマもだめー!!!」
「ったく、本当にいつも良いところで邪魔しやがる・・・」
小さな体で目一杯ドアを押し開けるリンがテギョンを指差し睨み上げた。
「アッパが悪い事してるからだもん!」
「オンマがしても良いって言ったんだよ!」
「言ってもダメなのー!!!」
睨みあうリンとテギョンの間でミニョがしゃがみこんでいる。
「リンのリクエストに応えてあげますよ!でもアッパにそれ被せるのはちょっとねぇ」
「そもそも被る気なんかないんだよっ!白スーツだけで我慢しろっ」
リンの手元とテギョンの顔を眺めるミニョが苦笑した。
「抱いてくれたら好いよ」
両腕を伸ばしたリンは、片頬を持ち上げ暫く黙って見ていたテギョンもあげている。
「・・・じゃぁ、赤苺を抱くって事で了解してやる」
「えぅうんー、それでも好いよー」
「え、あ、はれ、わっなっなんですかぁー」
にっこり笑ったリンの頭を撫でたテギョンの腕が素早くミニョの膝裏を攫い、事務所の一角小さなスタジオでA.N.Jellによる即席の撮影会が始まっていたのだった。
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言外はお好きに脳内変換ね( *´艸`) |