あれには続きがあったんだ。
────当り前ってさぁ、イチイチ言うことじゃないっていうか、いつものコトだって事だろ!?でもそれって人によってちょっとずつ違うんだよ!ユソンが違うって思う様に俺も当たり前とは思ってないし、えっとユンギに言われたんだけど、俺達は、まだガキで、大人にこうしろとかああしろって言われて違うって思う事もあるだろ!イワカンっていうらしいけど、それを感じるならちゃんとそれを伝えろって言われて、今、俺はそれを感じないからありがとうで正解だったと思ってる!お前が感じてるのもそういうんだと思うんだよな、だから、頑張るよありがとうで良いんじゃないかな────
その人を初めて見たのは、毎年恒例になってるハラボジからハルモニへの慰安という名の旅行も兼ねた僕の両親の命日参りで、アメリカならではの見渡す限り荒野に紛うハイウェイは、街からそう遠くもないのに走っている車も少なく、道路標識以外の障害物も無くてここで事故に巻き込まれたのは、本当に運が悪かったのだろうとそう思える様な場所だった。
タクシーを待たせ、何故こんな場所にと聞かれるハラボジのお決まりのセリフを聞きながら、僅かな時間に花と線香を手向け、言うでも聞くでもない話を胸の内だけでしてる間に少し離れた場所に止まっていた車に興味を惹かれていた。
ハイウェイを走るならあんな車なら気持ちも良いし格好も良いとそう思わせられる真っ赤なスポーツカーには、男の人が寄りかかってサングラス越しに大きなカメラを空に向けていて、そのレンズが、ふいにそうふいにこちらを向いてシャッター音も聞こえた気がしたけど景色を撮ってるんだと大して気にもしなかったんだ。
何故印象に残っていたかといえば、やっぱり車とそのスタイルかな。
家からあまり出ない僕にとって出会う人は限られていて、ハラボジの仕事仲間だと紹介されたユンギssiは、いつでもスーツ姿の高級なビジネスマンって感じでラフな格好は見た事無かったし、A.N.Jellの写真集とかネットに公開されてる情報とか中には普段着もあるんだろうけど、そうなんていうかツクリモノで遠い世界って感じもして、ハラボジが言うには、芸能人は、イメージ戦略っていうのが必要だから仕方ないと笑われた。
勿論、ハラボジはそうじゃないのかと聞いたよ。
必要ないとか言ってたけどよく考えれば、ハラボジのスタジオにも大きなクロークがあって年代別にどこのステージやインタビューで着たとか書かれたタグが貼ってあったんだけどね。
その人は、ソ・ジュノという人は、とてもラフな格好をしてたんだ。
あまりにラフすぎて均整のとれた体躯が一目瞭然。
ヘンリーネックとジーンズ。
カッコ好かったんだよ。
周りに何もないから余計にそう思ったのかもしれないけどよく言うだろ絵画から抜け出て来たとかさ。
まさにそんな雰囲気。
被写体として最高のモチーフというのかな。
とにかく目が離せなかった。
ハルモニが、肩を叩いて声を掛けてくれなかったらきっとあの人をいつまでも見てたかもしれない。
でもその時は、それだけ、だったんだ。
二度目の遭遇はあの日。
車に乗せてもらっただろ。
後部シートから見上げる横顔とその出で立ちにそれを思い出してたんだ。
けど、同一人物だなんて勿論思わない。
似た人。
別人。
そもそもアメリカのあんな場所で偶々見かけただけの人が知人の知人だなんて露程も思わないし、偶然だとしてもそれはまたすごく奇跡的。
だから捜してたと言われてスゴクそれはスゴク驚いた。
実際捜してたのは、僕の母と祖母で、顔も覚えてないその人達の話をされても僕には、ハラボジもハルモニもいて、両親がいないという事が、どういうことなのか良く解ってもいなくて、淋しいとか悲しいというのとはちょっと違うんだけど、むしろなんていうか、胸は詰まってたけど、詰まって詰まって一杯になって。
弾けそうな時にハラボジの部屋でアッパのドラムセットを見つけた。
アッパが叩いてくれた記憶が微かに甦った。
素人だからハラボジみたいにはいかないとかなんとか言いながら僕を膝に乗せタムやシンバル、スネアを叩いて、もう少し大きくなったらハラボジに教えてもらうと良いと言ってくれてた。
それを叩いた。
でも何も感じなかった。
音が出る。
それくらい。
けど、何ていうんだろう音が鳴ると同時に僕の心も弾むっていうのかな。
めちゃくちゃに叩いているんだけど、その滅茶苦茶が、僕を啓いたんだと思う。
初めて泣いた。
いや、初めてじゃないけど、初めてなんだ。
声を出して大泣きした。
ワーンワーンってね。
慌ててやって来たハルモニはきっと訳も解らず僕を抱きしめて、遅れてやって来たハラボジの腕を掴んでその肩で泣いてた。
家族は、ハラボジ達で良いけど最も近しい親戚のお兄さんくらいには思ってくれないかと言われたんだ。
アッパにはなれないけど、アッパみたいな事をしてあげたいと思ってると。
一緒に遊んで、一緒に考えて、一緒に。
旅行に行ったんだ。
ふたりきりでね。
ドライブも楽しくて、どこに行っても親子かと聞かれて、最初は、否定してたんだけど、そのうち面倒くさくなっちゃって、繋いでくれた手を、見上げる顔を、引いて歩ける事が嬉しかった。
抱き上げてくれた腕に景色の変わった視界に見下ろした顔がとってもあったかくて。
ああ、こういう気持ちかと思ったよ。
泣いてしまった僕にただ大丈夫と言ってくれて。
髪を撫でてくれる手にまた溢れて来た涙の意味も解らなかったけど。
でもこの手を掴んでても良いんだとそう思わせてくれた。
だから僕は今を結構楽しんでるよ。
先のことなんて解らないけど、今はこれで良かったとそう思ってる。
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