「あ、ヒョンニム!」
またか、と思っても顔には出さない。
気づかれてないだけだとは、これっぽっちも考えないテギョンが、振り返った。
方や、怖い顔してるとは思っても俯けた顔はテギョンから見えていないのを良いことに嬉々として近づき上げた顔に騙くらかされてるとミニョが話を続けた。
「あのですね今日、撮影があるのですよね!えっと、何、時・・・」
そこで漸くテギョンが電話中であったと見止めたミニョは、慌てて頭を下げた。
「俺の方が早く終わるから迎えに行ってやる」
ミニョの懸念を自身の手の中に見つけたテギョンは、終話ボタンを押し、ミニョの手を見つめた。
「それよりお前、そこへ行けるのか!?」
「あ、はい、それは、さっきスタッフさんに道順を聞いたので、あ、じゃぁ、終わったら電話しますね!」
簡易地図とパンフレットを手にチョッコンと頭を下げたミニョは、テギョンの脇を通り抜けた。
「おーおー、嬉っしそうに駆けてっちゃって・・・どっこが好いのかねぇ、俺未んだに解んねーんだけど」
「お前のどこが好いのかも謎だろ」
降って湧いた声に頭上を見上げる気もなくテギョンが、階段を昇り始めた。
「俺っはー、魅力をヘイにアピって聞きまくってるからなー!ヒョンとは違っうのよー」
エントランスロビーを手すりに前のめって見ていたミナムが、昇りきったテギョンに向き直った。
「早々に愛想つかされそうだな」
「何も言わねえよりマシだっってんだよっ」
「お前の表現方法が俺にも当てはまるとは限らない」
「っんなのっ」
「言わなきゃいられないお前の気持ちが解らないほどお子様でもないつもりだがな」
どこか喧嘩腰のミナムに乗っかったテギョンは、あっさりトーンを変え、不毛だと思ったミナムもまたトーンを落とした。
「・・・十っ分・・・鈍感だっつーの!っンなことより何!?何か用!?」
携帯を翳して見せるミナムに手の中の携帯に視線を落としたテギョンが応じた。
「お前、前にオモニに会ったんだろ!?俺に話す気ないとか言ってたけど・・・話せ」
「ぁあああ!?んナっことかよ・・・話す気ねーって言っってんじゃん・・・俺あのアジュンマ大っ嫌いなんだよっ!あの人に関わると禄でもねぇことになるから嫌ーだ!」
来いとばかりに手を挙げて歩き出したテギョンの後を追いかけるミナムは、舌を出した。
「・・・同感だな・・・」
「はっ!?何に共鳴してくれちゃってんの!?ヒョンの事情は知らねーけど、俺のこのゾワッゾワする感じと同じだとは思えねーよっ!」
「俺も思えないな」
「揶揄ってんの!?」
「いぃや、シヌの件だけどな、社長に報告はしておいた・・・けど、あいつ前があるから今のとこ取材させてくれと正面きられたら社長も断らないとさ」
変わった話題に目を細めたミナムは、ジーンズの後ろポケットに手を突っ込み、テギョンの足取りに合わせて横に並ぶと声を潜ませた。
「・・・・・・俺っさ、ミニョの事蒸し返すんじゃなきゃ本音のとこ別にどーでも良いんだよ・・・確かに気にはなるんだけど、ヒョンがもっと大々的に恋人宣言すんのかと思ってたら意外と拍子抜けで、こんな事ならやっぱ意地でも説得すべきだったんじゃねーかってちょっと考えたりしてさ・・・」
「お前が宿舎を出るって話か!?」
「出ても良いんだぜ!連れてっちまってOKならいつでも」
「人の足元を見るな」
「ヒョンだって見てんだろー!大体、ヒョンが一緒に暮らすとか絶対あり得ないんだから仕方ない!ンなの結婚するまで世間が許してくんねーよっ!」
「結婚すれば好いのか!?」
ピットリ足を止めたテギョンを半歩前に出たミナムが振り返った。
「交際を許しただけだってーの!寛容なお兄様をもっと尊敬なさったらー」
ニヤリと頬を上げたミナムは、斜に構え、それをジットリ頭から爪先まで見下ろしたテギョンがまた歩き出した。
「狼の巣だと思わないコミ・ナムを尊敬してる」
いつものトーンと全く違う呼び名にじっくり頭を使ったミナムは、眉間を寄せ慌てて数歩を駆けた。
「俺じゃねーのかよっ」
「コ・ミナムとコ・ミ・ナムだろ!?」
「俺の名前だってーの!」
可笑しそうに笑うテギョンにミニョの行き先を訊ねながら、剥れていたミナムだった。
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