同時刻、宿舎から少し手前の公園脇で車を停めたテギョンは、イヤホンを外して携帯を耳に充てていた。
「ええ、コ・ミナムが書いた書類なら持ってますよ・・・来週からの予定でコ・ミニョをレッスンに行かせるつもりです・・・」
開いたダッシュボードからCDを取り出し、デッキにセットした。
「インストだけならもう出来上がっていますのでいつでもお聞かせしますよ・・・レコーディングは、まだいつとは決めていないので・・・」
ひとしきり相手との会話を気怠そうに交わしながら通話を切り、エンジンを掛け直した。
「ったく、タイミングが良いのか悪いのか・・・こっちの都合も考えやがれ!」
助手席に無造作に携帯を放り投げてアクセルを踏んだテギョンは、ほんの数分で宿舎前に辿り着くとウッドデッキを怪訝に見つめた。
「こんな寒空に何してるんだ!?」
いかにも寒さ凌ぎの厚着で着ぶくれたジェルミは、のっそり起き上り、ほんのり赤らむ顔でテギョンを見上げた。
「んあーヒョーンおっかえりー、えっとね、待ってた」
「何だ・・・何かあったか!?」
屋上から微かに聞こえる笑い声を眉間を寄せて振り仰ぐテギョンに違うと否定したジェルミは、スケジュール表を渡した。
「!?お前のスケジュール!?」
「うん急で悪いんだけどさ、明日から一週間イギリスに帰りたいんだよね。社長にはOK貰ったんだけど、ほらサイン会あるじゃない・・・フォローして欲しいんだけど・・・」
「社長がOKなら問題ないだろ・・・何でそんな事をわざわざ・・・」
ざっと眺めて声を潜ませるジェルミを置き去りにスタスタ玄関に向かったテギョンは、さっさと中に入った。
「いや、えっとね・・・シヌひょんにお願いしたんだけどちょっと無理そうで・・・」
「シヌが!?・・・そう言ったのか!?」
「いやっ、えっとさ、今まだ色々あるのは、えっと仕方ないと思ってるんだけど・・・」
靴をもどかしげに脱いだジェルミは、それでもそこで待つテギョンにはにかんで見せた。
「お前が思ってるような事にはならない・・・させるつもりもない・・・確認しただろ」
「ぅ・・・ん、そぅなんだけど・・・」
足元に目を落しそれでも逡巡を見せるジェルミの肩をテギョンが、叩いた。
「お前にも無理させてる・・・か・・・」
「えっあっ違うっ・・・違・・・っぅよ・・・」
それでも。
それでも依然と重苦しい空気の中に生活があるのだと、事務所に出掛け、撮影に向かい、それぞれに今頃何をしているのかを把握出来ていても以前とはまだ何かが違う。
短い時間です。
ジェルミの呑み込んだ言葉とミニョが言った言葉を頭で反芻するテギョンは、この選択を間違っているとは思えない。
思いたくない。
そんな事を考えながらリビングを通り抜けていたのだった。