人波が、徐々に帰宅へと足を向け始めた頃、ステージを眺めて、聞き入っていたテギョンが、ミニョの手に手を重ねていた。
「帰るか」
リンと他愛ない話をしては、笑っていたミニョが頷いて立ち上がっている。
「えっとじゃぁ、オッパ達お疲れさまでした」
テーブルで好き勝手な口上で談笑していたミナム、シヌ、ジェルミが、テギョンに抱かれたリンに手を振った。
「ジュっノっヒョーン」
通り道のキッチンカーを指し示したリンは、ジュノに向かって手を振り、テーブルに突っ伏すユンギの脇で止まったテギョンに下ろされている。
「帰るの!?」
「ああ、お前は!?後片付け迄いるのか!?」
辺りを見て頷いたユンギは、テギョンに紙袋を差し出した。
「ね、ね、ジュノヒョントリックオアトリート!?」
「ああ特注パンプキンパイ!焼きたてね!」
箱に入れたパイを見せてから袋に入れたジュノは、頭を下げたミニョに渡し、リンは、テギョンに腕を伸ばして抱き上げられている。
「じゃぁねーまた遊んでねー」
ユソンと繋いだ手を離したリンは、ジュノとユンギに手を振り、歩き出したテギョンの顔を覗いた。
「ね、アッパ、ジュノヒョンのピアノ、凄かったね」
「ああ、けど、手が違うから楽器を変えたら、もっと良い音が聞けるかもな」
肩越しにまだ手を振るリンを笑ったテギョンは、ミニョの荷物を攫っている。
「イタリア行くのですか!?」
空いた手でテギョンの腕を掴んだミニョは、首を傾げるリンを見上げた。
「スケジュール次第だな・・・俺だけ行っても話にならないし・・・多分ジュノ達と行くことになるだろうな」
フードを引っ張ったリンは、ミニョに直されている。
「国内にもあの手の楽器が無い訳じゃないし、ユンギの系列会社にも訊いてはみたが、流石にあの音源はなかったというか、そもそもあんな年代物をその辺の安いインテリアよろしく持ってるソヨンssiがおかしいんだぞ」
「まーた苛められちゃいますよー」
「・・・あの人に頭が上がらない原因作ったのは、お前だろ」
横目のテギョンにミニョがプクプク頬を膨らませた。
「オッパが悪いのでしょう」
片頬を釣り上げたテギョンは、リンと顔を見合わせている。
「そういえば、リビングのリンの写真撮ってくれたのもオンニでしたねー」
「ああ、あの写真は良いよな」
「ちょっと大きくなったリンの写真撮ってもらいたいなー」
強請り口調のミニョが、テギョンを見上げた。
「今は一緒には行けない・・・」
「アッパ、なんかとっても嬉しそう」
テギョンの頬に手を当て引っ張るリンは、ニンマリ顔を見ている。
「お前もな!?今日は楽しかっただろ!?」
「三人で一日お散歩出来たから嬉しいよ」
「暫くこういうのなかったですからねー」
「望めばいつでも、喜んで」
ミニョに柔らかく微笑んだテギョンが、僅かに腰を落として見せた。
「オッパ、格好良すぎます」
「アッパカッコ良いから一緒に大根食べようよ」
「な、ばっ、二度と食うか!」
ポカンとしてハッとしたテギョンは、リンを睨みミニョはクスクス笑っている。
「ね、オンマっバーベキューしようっ!」
「えっ!?夏に一杯したじゃないですかぁ」
ぎょっとしたミニョは、ハッとテギョンを見上げた。
「みんなとしたいっ!」
「えーっと」
「夏にしたってどういうことだよ!?」
「アッパが居ない時にふたりでした!」
「はぁあ!?」
「違っ蟹っ!蟹と海老を焼いたのですっ!」
粘りつくジト目で見つめられるミニョが慌ててテギョンの腕を離している。
「オッパが食べれない物をお庭で焼いただけですってばー」
駆け出しそうな体をグイッと引き寄せたテギョンは、腰を抱いて耳打ちをし、首を振るミニョとリンを抱いて急ぎ足で帰って行ったのだった。