「はいリンもどうぞ」
場所を変えマルテーブルを囲んでにっこり満足顔で戻って来たリンの前に紙コップに注ぎ替えた水を置いてナイフで切ったパンも置いたミニョは、テギョンの腕を引っ張った。
「ね、オンマ、アッパどうしたのー!?」
横を向いたまま目深にしたハットからリンを睨むテギョンは、舌打ちをしている。
「もっオッパ!拗ねないでくださいっ」
「誰が拗ねるかっ」
テギョンの口元に小さなパンを差し出し指まで咥えられたミニョが目を見開いた。
「拗ねてんじゃん」
「リンと同じ顔してるじゃん」
「何があったんだ!?」
テイクアウトの軽食を抱えたまま椅子を引いたサングラス越しのシヌが眉を顰めている。
「ヒョンが珍しくぼーっとしててさぁ」
「感傷的になってるんだって」
「遠くから見ててビックリするくらい考え事してるカッコが面っ白れーの」
ガハガハ笑うミナムは、腹を抱え、呆れ顔のシヌがクスリと唇をあげてテギョンに睨まれ、肩を竦めた。
「お前等あんまり近寄ってくるなよ!目立つだろ!」
「もう遅いよ」
「俺今日スカートだから大丈夫」
ミナムの持ち上げた布端をジェルミが興味深そうに引っ張っている。
「十分目立つね」
「シヌヒョンが悪目立ちしてるんだろ」
足を組んで斜に構えるシヌは、サングラス越しに目を細めてミナムの後ろを指した。
「あのふたりとチビッコの方が人目を引いてるぞ」
「ソンベは!?来てないのか!?」
「昨日から地方に泊まりだってさ、会場の下見だって聞いた」
ジェルミの答えに首を回したテギョンが溜息を吐いている。
「A.N.Jell揃ってたら目立たない訳がない・・・か、お前達仕事無いのかよ!?」
首を振りかけて頷くジェルミを睨み、そっぽを向いたシヌとミナムを見回した。
「こんなとこに黒服引き連れて仕事してる方が目立つよね」
「・・・スタッフだと言えばそれまでだな」
テギョンの視線を横目に閉口していたジェルミが、ポテトフライを摘んで大きな口を開けている。
「そういえばイ・ユンギとスペードのユンギって同一人物なのかってまた聞かれたよ」
「あぁそれ俺も聞かれた!どっかの記者っぽかったよな」
「取材全部断ってるらしいから噂が独り歩きしてるんだろ」
ミニョの手からポテトを貰っているテギョンは、伸びたリンの手にも顔を寄せた。
「で、あのプライベートポリスか」
「大掃除したら挨拶に寄って来られてウザいってヒジュンがつけたらしい」
「ねぇユソンヒョンは何でジュノヒョンと一緒なの!?」
キッチンカーに乗り込んで接客の手伝いをしているユソンをリンがじっと見ている。
「ジュノssiに勉強教えて貰ってるんだよユソンは」
「へぇあんな風に笑うとこ初めて見た」
「一緒に仕事することになったんだろ・・・新しい事業を始めるらしいな」
「あ、それってモデル事務所でしょ!」
膨れた腹を擦ったミナムは、コーヒーを口にした。
「店の2階をそのまま事務所にして使うってさっきジュノから聞いたぜ」
「え、ということはユソンをスカウトしたって事!?」
「毎日学校に迎えに行って口説き落としたらしい」
「博士号持ちの家庭教師はどこでも教えられてお得だってソンベを口説いたらしいな」
ジェルミもコーヒーに口をつけ、苦そうにシヌのお茶に手を伸ばしている。
「え、ジュノssiもユソンも勉強好きなの!?」
「少なくとも音楽家になりたいとは思ってないだろうな」
ポケットからハンカチを出したミニョがリンの口に充てた。
「リンは!?何かなりたいものあるのですかぁ!?」
「!?ハッパ!」
「ファン・テギョンになりたいんだろ」
一息吐いた面々は、リンに視線を集中させている。
「あー、でも俺も一日くらいならヒョンになってみたいかもー」
得心顔のジェルミが手を叩き、傾けた椅子ごとミナムに顔を寄せた。
「そっそれでミニョを押し倒してみたいっ!」
クフッと小声の囁きにシヌが忍び笑っている。
「ああ、それなら俺もなってみたいな」
「えーじゃぁ俺はミニョになってヒョンに押し倒されてみるかなー」
シヌとジェルミに挟まれたミナムが、俯くミニョにテーブル越しに顔を近づけた。
「オオッパ何度もあるじゃないですかっ」
頬を染めたミニョは、慌てて横を向いている。
「あの角度でみるヒョンの流し目って新鮮だからなっ」
コホコホ咳払いをしているミニョを見ていたテギョンは、テーブルに肘を付き、目を閉じて拳を握り締める様を見せつけていたのだった。
いつものパターンだ(笑)