ステージ脇から裏へ、キャンピングカーの前で立ち止まったテギョンの腕の中でにらめっこ状態のリンは、口を塞ぐ手に必死の抵抗をしていた。
「アッパの意地悪っ」
「黙ってろ!今は、駄目だと言ってるだけだ」
「僕もあがりたーい」
「アレが終われば上げてやる」
「ユンギヒョンじゃなくてジュノヒョンと演りたーい」
車中から手を振っていたユンギがステップに顔を出している。
「アレ相手じゃコードが読めても無理・・・だよね、ヴォイシングが違いすぎる」
「ヴォ!?ボ!?なーにー!?」
首を傾げたリンが難しい顔をするユンギとテギョンを見比べた。
「足したり引いたり出来なけりゃ譜面が読めても無理だって事だ」
「足し算も引き算も出来るもん」
「ドミソをソドミと置いて瞬時に転回!出来るか!?」
きょとんとスしたリンは、首から倒れている。
「お前に理論説いても無駄だ・・・弾きこなしてる数が足りなすぎるんだよ」
体制を崩されたテギョンは、笑って起き上るリンのフードを引っ張った。
「アレだけになるには相当数のジャムセッションしてると思うけど、ご満悦!?」
「予想以上だろ・・・ユジンが秘匿してた理由・・・解るだろ!?」
ユンギのニンマリ顔をさらりと躱したテギョンは、片頬を釣り上げている。
「で、テギョンは、アレとセッションでもするの!?」
「俺じゃなくてそいつがお前の女とな」
下ろされたリンは、狭いステップに座るユンギの脇をむりくり通り抜けた。
「ユジンはお前のレーベルに入る気ないんだろ!俺(A.N.entertainment)に仕事の依頼してきたくらいだし、こっちで進めるぞ」
「はいはい・・・お兄様の言う事には従いますよ!俺、そっちに頭使えないから」
気怠そうにあげた手で膝を叩いたユンギは、ステージのミナの声に耳を傾けて立ち上がっている。
「納品は年内にしてよね」
「注文つけるな」
「でもやるよね!?」
「ああ、就任前には片付けてやる」
トンとふくらはぎに押し付けられたギターを手にしたユンギは、振り返ってリンにストラップを被せた。
「遅かりし結婚祝いってね」
「お前への祝いはコンサートで十分したぞ」
シヌを呼びギターを要求するユンギを見ていたテギョンも車中を覗いている。
「で、お前、まだ演る気か!?」
呆けた顔のユンギが、テギョンに首を傾げた。
「コンサート並みにスペード引っ張っといて、まだやるのか・・・」
「ばらけて出るって言っただろっ!お遊びなんだから大目に見ろよっ」
「本域の演奏しといて何を今更・・・」
「悪かったね!客も喜んでるし良いのっ」
カタとステップを降りて来たリンが、ギターを背負い譜面をテギョンに差し出している。
「アッパも一緒に出るの!」
「あ!?」
我関せず顔でシヌが差し出したギターも受け取ったテギョンは、油断を攫われにっこり笑うリンに背中を押されてステージへの階段を昇っていたのだった。