日曜日の午前、ズラリ並ぶキッチンカーとそこかしこで設置され始めたテントと飲食スペースを眺めながら高くもない陽を臨んだミナムは、ガーデンテーブルに突っ伏し手探りで紙コップを探り当てている。
「よぉ、レディコ・ミナム!」
「っ変わらずチビだなぁお前」
「ジュノは!?一緒じゃないのかよ!?」
思い思いの口の端に背中を叩かれ、肩を抱かれ、テント下で紙コップを吹き戻したミナムは、ジェルミにぎょっとされながら振り返っていた。
「お前がA.N.Jellとか俺達まだ夢でも見てるんじゃねぇの!?」
「ミニョちゃんは、なーんか納得出来たけど、お前、そんなんで良くスキャンダルとかトラブル起こさねぇよなぁ」
「そうそう、こいつなら真っ先に誰か殴って首になってそうなのになぁ」
高らかに笑う五人組が、ミナムを見下ろしている。
「おっ・・・」
ゴホッゴホッと咽ているミナムは、ジェルミが差し出したコップを一気に飲み干した。
「おっ、おっ前っ等なー」
立ち上がったミナムは、ひとりひとり握手とハグを交わしている。
「えー、なんなんだよ―お前等ー何年振りだ―!?」
「あ!?ジュノに聞いてねぇの!?」
「だーめだってジュノってば、こういうのミナムには言わないんだよ」
「そうそうトラブルメイカーの自覚がねぇ秀才は、操ってた方が良いとか何とか言っちゃってさ」
「あいつだって、かなりの勉強好きじゃん」
「だから、ミナムと張ってたんだろ」
「頭良い癖に喧嘩早くて逃げ足も早いせいで俺達どれだけ教師に怒られたか・・・」
さめざめ泣き真似をする友人を慰め始めた四人の腹をミナムの軽いパンチが掠めた。
「どんくさいお前達が悪いだろー」
「代わりに謝ってくれるミニョちゃんは天使だったもんなぁ」
後ろに飛び跳ね綺麗に避けたひとりが、ファイティングポーズを取って仰け反っている。
「あぁ!?何の話だ!俺、知らねぇぞ!」
「いつもお世話掛けてますって!たまに差し入れくれてたんだよ」
「「ソ・ジュノっ!」」
肩を引き寄せ止めに入ったジュノがミナム達に睨まれた。
「ミニョちゃんお前の為に料理クラブ入ってただろうが」
削がれた気を舌打ちで消すミナムは、ジュノに向かって思い切った拳を突き出している。
「・・・ただ飯食えるんで俺が入れたやつか」
掌で受け止めたジュノが、クスリと鼻で笑った。
「ミサの手伝いがあって早く帰る日とかこいつらに会うと菓子とかくれてたんだよ」
「お前の心配ばっかしてたもんなぁ」
「オッパは、あれで結構淋しがり屋ですからとか言われて・・・」
顔を見合わせ肩を組んだ五人組がミナムを見下ろし、近づけた顔で笑い出した。
「「「「大っ笑いしたよなぁ」」」」
浴びた飛沫を拭ったミナムは、険しい顔で振り返っている。
「おいっ!コ・ミニョ!!!!」
「ミニョなら、まだ来てないよー」
ガーデンチェアを揺らし成行きを見ているだけのジェルミがのんびり笑った。
「ったく、保護者じゃねぇのかよ・・・あいつ」
「俺達だだの見物人だろー」
「お前もなー収録行かなくて良いのかよ!?」
「ずらして貰ったに決まってんじゃん!今日の分録り終わってるし」
ジュノが持って来た軽食を口にいれたジェルミは、目を瞠って次々口に入れている。
「で、ジュノ、あいつらなに!?」
背を向けキッチンカーへバラけて向かう友人達を指したミナムは、ジュースを注いで座った。
「手伝いに呼んだに決まってるだろ」
「・・・何で釣った!?」
「日給だろ」
「あいつらがそんなはした金に釣られる玉かよー!何かあんだろ!?女か!?」
モヤモヤ顔のミナムに首を傾げたジュノは、真顔でエプロンのポケットに手をいれている。
「あー・・・これか!?」
掌を擦り合わせカード状の紙を拡げた。
「お前の奥さんがくれたぜ!サイン入りプロマイド!?」
ミナムとヘイのサインの入ったプライベート写真を見せたジュノは、伸びた腕を躱してポケットにしまっている。
「あいつらお前の結婚式行かなかったんだってな・・・俺と違って呼ばれたのになぁ」
積みあがった椅子を並べ始めたジュノは、ミナムにタオルを数枚放り投げた。
「・・・おっ真っ先に呼ぼうとしたのに帰らない!って言ったからだろっ!!」
テーブルを拭くミナムは、立ち上がって隣も拭いている。
「ま、あいつらは、あいつらなりに気にしてんだよ!お前に会うのも近づくのも」
「んなの気にされたって俺は俺だ」
「でもお前はA.N.Jellに入って今もトップスター様だからな・・・ほじくり返されたくない過去もあるの知ってるし、迷惑かけたくないって思ってんだよ」
「お前とツルんでるならそんなの考える必要ないだろー」
「ぅーん・・・・・・自重ってやつ!?」
セッティングを終え、ミナムからタオルを取ったジュノは、遠くの声に返事をした。
「賢くなったんじゃねーのー」
呼ばれたからと手を振り去って行くジュノの背中を苦々しそうに見つめ別方向の声に手を挙げていたミナムだった。