────なんで弾いてくれないの!?弾いてよー!聞きたいっ!!
────聴かせてくれないならユソンヒョンは、あげないもん!
────コモだけなんてずるいもんっ!
やるせない出来事だったとユジンに話して聞かせるジュノは、クスクス笑う顔に向かってクッションを投げつけていた。
「で、落とされて引き受けちゃった訳だ!?」
ポスンと足元に当たったクッションを投げ返したユジンは、ジュノの脇の丸テーブルにカップを置いて、ピアノの蓋を開けている。
「・・・あの子の前で弾くくらいは、全然構わないさ・・・けど、そこにキム・ヒジュンssiもいたから話がややこしくなったんだ・・・」
カウチの肘掛けに頭を乗せたジュノは、手探りでクッションを拾い上げた。
「甘く見るからよ!テギョンオッパからは上手く逃げられたのにねー!?」
ポーンとひとつ音を弾いたユジンは、手にした音叉を置いてバイオリンケースを開けている。
「俺は、ミュージシャンじゃないんだぜ!偶々弾けるってだけで本物と比べられてたまるかよ」
「本物が認める程の腕があるんだから仕方ないわよ」
譜面台を引き寄せ、顎をあげたユジンは、音階を奏で調整を始めた。
「君がっ!譜面になんか起こすからだろ!」
「貴方のっ!腕に色気があるのが悪いのよっ!」
弓をカウチに向けたユジンは、速弾きを初め、立ち上がったジュノは、ピアノを叩く様に弾いて追いかけている。
「私達本当に合わないわよね・・・」
「・・・合ってたら結婚してたろ」
一曲弾き終えたユジンは、弓を下ろすと大きく項垂れ、ジュノは、更に軽やかに指を動かし始めた。
「で、決めたの!?」
「ああ、キム・ユソンを使って守る・・・契約も交わしてきたよ!婆さんにあんな話された頃は、家に帰るのも嫌だったんだけど、姉貴が旦那と子供達守る為に当主の座ぶんどろうと画策してたのは知ってたから脅して協力してもらった」
バイオリンを肩に挟んだまま譜面を捲ったユジンは、軽く息を呑んでいる。
「脅・・・したんだ」
「ちょっとだけな」
クラッシクからジャズへ軽やかな演奏を続けるジュノは、ニヤリと頬をあげた。
「きょうだいが多いってのも大変なのねー」
「君はひとりだからそういうの関係ないもんな」
「・・・テギョンオッパがいたけどね・・・」
弓を返したユジンがジャズスタンダードを追っている。
「早々に見限られてただろ!第一血縁関係ないんだし渡せるものか!?」
「候補者ではあったわよ」
「君の婿候補だろ」
「オッパと結婚なんて絶対お断りよっ!アボジに何十も輪をかけた神経質だし潔癖症なのよ!おまけに私を無視することにかけちゃ天下一品なんだから!一緒に暮らすとか手を繋ぐとか考えただけで!」
演奏を止めたユジンは、体を震わせた。
「出来る訳ないじゃない!だからミニョオンニは、凄いのよ!」
「天然で大分抜けてるからな」
鍵盤をザッと舐め弾きしアルペジオで終えたジュノは、ユジンを見上げいる。
「ミナムssiとは正反対よね」
「ミナムも実は大分抜けてるんだけどあいつそれに気づいてないから面白いんだよな」
ククと転げそうに笑うジュノの顔にユジンが真顔で聞き返した。
「でも、大切な人なんでしょ!?」
「ああ、あいつのお蔭で俺は、間違えなくてすんでるからな」
カウチに戻ろうとするジュノの腕を引きピアノに寄りかかったユジンが弓をペンに持ち替えている。
「名家に生まれなければって考えた事・・・ある!?」
譜面に書き込みを始めたユジンの手元を覗きこむジュノは、傾いた顔に額を押し付けられた。
「勿論あるだろ!家に潰されるのは御免だとでも自分は子供だと兄貴達見てそう思ってたし、近所の連中にお前は良いよなとか恨まれて、羨ましがられる理由も生家のせいならそんなの数限りなく思ってたぜ」
「だから喧嘩してたの!?」
「憂さ晴らしだったのは確かだ・・・けど、ミナムを女と間違えたからなぁ・・・」
突き合わせた額に距離の近さに逸れない瞳で見つめ合い、苦しそうに小さな溜息を吐いたジュノがピアノに背を向け寄りかかっている。
「その話!面白そうね!」
ジュノの腕を掴んだユジンは、喜々として続きをせがんでいたのだった。