「思いっきり恍けられたぞ」
受話器を手にしたままデスク前に立つパク・ヒジュンをユンギがじとおり見上げた。
「ソンベはジュノssiから筋を通されたみたいですから何ら問題は無いんでしょ」
フックスイッチから手を離したヒジュンは、コードを引いている。
「けっど、こ、れっ正真正銘の真実か!?」
「鑑定書もある様ですからまず間違いないですよ」
デスク上を見回したユンギは、写真が角止めされた書類を持ち上げた。
「墓でも掘ったのかよ・・・」
「・・・ジュノssiは、掘ったみたいですね」
淡々と抑揚も無く返される答えに目を細めるユンギは、椅子を回して背を向けている。
「で、お前は、こいつらをどこから掘って来た訳!?」
「掘る前に落ちてきました」
透かし書面に微かに浮かぶ秘とFの文字を見ながらユンギが眉間を寄せた。
「・・・ファンの爺様は、この事実いつから知ってたって!?」
「あなたが家出をしてた頃で・・・すから」
手帳を見定め指を折り始めたヒジュンは天井を仰ぎ、立ち上がったユンギの勢いに僅かに怯んでいる。
「数兆だぞ」
「そっうですね」
「とんでもない額だぞ」
「そうですよ」
ネクタイを直しながら息を吐いたヒジュンは、ユンギの視線を正面で受け止めた。
「子供にどうこう出来る額じゃぁ無いんです・・・だからこそじゃないんですか」
真っ直ぐ見つめ返される視線に折れたユンギは、舌打ちをして腰を落としている。
「ソンベの口調だとここまでは知らないよな・・・にしても金の問題はどうとでもなるとして・・・決定権の比重大きすぎ!・・・・・・・・・だろ!?」
底から湧き上がっている苛立ちをコーヒーで濁すユンギは、溜息と共にヒジュンを見た。
「で、元々の管理者は!?」
「スイスにいらした娘さんですね・・・亡くなる直前に甥であるジュノssiに託されたようです」
「ス!?・・・ってヨーロッパか!?・・・・・・調べられない訳だ・・・ね」
「もうひとつ、その方が持っていたという先代の遺書です・・・」
黄色味がかった古びた書類が写された写真がデスクに置かれている。
「現行の決定権は、Aliceに委任さ・・・・・・・・・・・・見つからない場合は、慈善団体へ!?・・・ってこれ実行してくれてたら・・・」
目を細めたユンギは、眼鏡を掛け辛うじて読みこめる文字を追った。
「受託者ソ・ジュノ・・・受益者は、キム・ユソンです」
「一連の行動の謎・・・・・・・・・守る・・・為かっ!?」
手持ちの書類の最後の一枚をデスクに置いたヒジュンは、大きく頷いている。
「あああー、もう!!ユソンはソ家にとっちゃ重要なポジションにいたってことだ!追い出した連中にこれを気付かれたら絶対何かされるぞ!!!」
「と、いう訳で、総括するとジュノssiの後援は絶対的不可欠です」
デスクに突っ伏したユンギを笑ったヒジュンは、あがった顔に睨まれ咳払いをした。
「ソンベは関わりたくない人だと思ってた」
「火中の栗を進んで拾うのは、間抜けな猫か・・・誰かの為でしょっ」
「俺って、凄く善い人だな!」
「誰も貴方だと言ってません」
「キャンペーン張ろうっ」
「黒い噂第何弾!?」
腕の間で籠る声に適当に返事をするヒジュンは、ユンギの後頭部を見つめている。
「ま・・・ぁ良い、それ、アリスって事は、凍結状態だろ!?解凍されるのは、ユソンの成人後!?」
ガサッと書類を探ったユンギの意図を汲んだヒジュンが片付けを始めた。
「勿論・・・ただし望めばです」
「望まない様に育てる・・・か・・・な」
「それで良いんじゃないですか!?今のままならいずれ消える金ですよ」
「無いよりあった方が良いけどあり過ぎ・・・るよなぁ・・・」
「貴方もですが、ジュノssiもどちらかというと似た様なお考えをされる方なのでは!?」
漸く顔をあげ身も起こしたユンギは、ヒジュンを見つめている。
「そ・・・うか・・・な・・・」
そうだと良いなと口だけを動かしたユンギは、頷いて陽の落ち始めた外を眺めていたのだった。