リビングの扉を開けたテギョンは、一通り見回し、香ばしい匂いの中でキッチンに立って鼻歌交じりのミニョの背中にピッタリ寄り添っていた。
「お、はよう!?」
頬に落ちるキスに振り返り様のミニョが、手を止めている。
「オッパ!火を使ってたら危ないです!」
「それくらい見てからしてるに決まってるだろ!?」
春雨を口に入れたテギョンは、一舐めずりした唇をミニョに寄せた。
「うー、この手じゃ抵抗出来ないのですけど・・・触っちゃいますよっ」
眦を決すミニョに苦心のテギョンが僅かに離れている。
「ぅ・・・い、や、それは、遠慮する」
「もー、オッパのピーマン生で入れちゃいますっ」
「避けて食うだろ」
細切れの物体をボウルに放り投げるミニョの脇でコーヒーをドリップし始めたテギョンが、カウンターを眺めた。
「に、しても随分作ったな・・・ピクニックでも行くのか!?」
「あ、それ良いですね!リンにあんなこと言われたので作り過ぎちゃったんですけど」
タッパーを引き寄せ詰め替えたミニョは、手袋とエプロンを外している。
「リンは!?」
「もう学校行きましたよ・・・ユンギssiが送ってくれるって」
「ああ、そうだった」
小皿を選り分け、スープ皿を並べて座り込んだミニョの前にカップが置かれ、テギョンも隣の椅子を引いた。
「ね、オッパ」
座り込むテギョンを下から覗き込むミニョは、ニンマリしている。
「何されるのですか!?」
「何って!?」
「ジュノssiの映像貰ってたでしょ!?」
カップを口に付けたままテギョンが、ミニョの前からフルーツ皿を引っ張った。
「ミナムオッパがリンにユソンの写真見せられて何か聞かれたらしいのです・・・」
並べられたおかず皿を脇に避せ始めたテギョンをミニョが睨んでいる。
「ソ・ジュノが、モデル事務所を立ち上げて、ユソンをメインに使うって話だろ」
手元を見て、テギョンの顔を見ているミニョは、スプーンを置いて箸を持ち上げた。
「Fグループは爺が引退するとユンギが会長に納まる訳だが、ユジンが会長夫人になったとしてもあいつは引退するつもりなんてないからな・・・国内活動の準備もしてるけど顧客のメインは、ヨーロッパであっちにもこっちにも明るい人間が欲しい」
フルーツとコーヒーだけを口に運ぶテギョンは、差し出された箸を一瞥している。
「リンを使わせろと言われたから断った」
渋面で暫くにこにこ顔のミニョを見ていたテギョンが、口を開けた。
「ユジンはリンをモデルとして使って向こうで顔を売りたいんだよ!」
大根をシャリシャリ噛む間にミニョがスプーンでご飯を掬い差し出している。
「とんでもない話だぞ!それでなくてもあいつは、俺やお前のミニュチュアみたいな格好するのが好きで!!俺の心臓壊す気だろ」
「・・・オッパ心配症ですもんね」
「お前が事故多発体じゃなけりゃこんな心配するか!」
「わたしのせいじゃないでしょー」
運ばれるおかずにいい加減嫌気が差した顔のテギョンが箸を手にした。
「いっそどっちも閉じ込めておきたいくらいだ」
「・・・オッパの腕だけなら良いですよ!?」
「なっ・・・にっ・・・」
ガタンと椅子を鳴らしたミニョは、テギョンに寄り添って両腕を回している。
「心臓に悪すぎる・・・」
二の腕をあげたままのテギョンが、ミニョを押し退けた。
「閉じ込めてくれないのですかぁ!?」
「奇妙に笑うな!ったく・・・」
「ふっふっふー、です!」
「何だよそれ・・・」
「オッパを独り占め」
クスクス笑ったミニョは、満足顔でテギョンから離れている。
「帰ってからリンに付きっきりなんですもの!」
「・・・怒ってるのか!?」
「ぜーんぜんおこってませんよー」
ちょこちょこ箸を口に運びテギョンが避けた皿を隣に押し戻したミニョは、カップを手にして立ち上がった。
「・・・お・・・前、そんなに俺の事好きだった・・・のか!?」
振り返り、振り戻ったミニョは、トプトプ零れそうな程コーヒーを注いで慌てている。
「で、あ、れ何だ!?」
横目でリビングを指差したテギョンもカップを差し出してお替わりを要求した。
「ハロウィンの衣装!?」
「だれが発注した!?」
「リンに決まってるじゃないですかー!ユンギssiが持ってきま・・・した」
「中、見たか!?」
ぶんぶん首を振って、立ち飲みしたカップを置いたミニョを上目で見ていたテギョンは、座り直そうとした手を引いて箱を開けていたのだった。