会議室のドアを開けたテギョンは、何をするでもなくスラックスに手を突っ込んで立っているだけのユンギを呼んでいた。
「悪いな!一緒に出掛けたかったんだろ!?」
「お前に遠慮を求めると後々落ち込みそうだからさっさと片付ける方を選んだだけだ」
スクリーンを落とし込み、一部のカーテンを閉めるテギョンにユンギは首を傾げたが、テーブルに置かれた書類を持ち上げている。
「俺ってそんなに信用ないんだ」
「ある訳ないだろ!お前の持って来る話ってのはいつでもヒヤヒヤ物なんだよ」
「まぁ、間違ってないっ」
「で、どんな企画だ!?」
ユンギが捲っている書類を寄越せとテギョンが手を差し出した。
「創立記念にCM撮ってただろ!?アレの再現してくれないかと思っててさ!但し、規模は倍、場所はクルーズ船」
「・・・・・・爺の引退式か!?」
「そういうこと」
「招待客は・・・厳選してあるのか・・・」
数枚めに目を止めたテギョンは、上から指でなぞっている。
「うん、俺の立場上周りが色々でまかせの噂もしてて五月蠅いからねー、何言われても書かれても良い様に圧力掛けられそうな人達を選んでみた」
強かな笑みを浮かべたユンギに呆れ顔のテギョンが、目を戻した。
「発表は!?年内にするのか!?」
「ああ、腹が出る前にしたいって希望があって」
「あいつのイメージ衣装なら目立っても気にならないだろう」
「そう言ったけど、嫌だって言うんだよね」
「音楽と構成ね!?どうするんだ!?」
固定式長テーブルのゆるやかな曲線に腰を落ち着かせているテギョンが、ユンギを振り仰いでいる。
「誰がやるかって事!?」
じっとり眺めるテギョンは、書類に戻した目を泳がせた後、ハッと顔をあげた。
「おっ前ま、さか」
「アレンジは、全面的にバックアップしてくれるだろう!?」
片目を閉じるユンギは、親指をたててポーズも作っている。
「ユジンに全部渡したのかよ・・・」
「テギョンが断るからだろう・・・泣きつかれてさぁ・・・」
額から目を覆い隠し、深く溜息を吐くテギョンは、隙間からユンギを睨み上げた。
「・・・断れよ」
「コ・ミニョssiに泣きつかれるとこ想像してみろよ」
ガンフィンガーを顎に当てくるんと回転させたユンギは、テギョンに指し向けた。
「断れるか!?」
ズイと間近に詰め寄っている。
「・・・黙らせる」
「出来る想像が出来ない!」
近すぎる距離にユンギの頭を押したテギョンは、書類でも頭を叩いて背筋を伸ばし、スクリーンの電源をいれた。
「そういえばお前、ハロウィンに何かやらせるってリン達に言ったんだろ!?」
「え、ぁああ、プロムナード・・・」
返された書類と逸れた話にユンギがポカンとしている。
「いつものボランティア演奏会だろ!?お前も出るのか!?」
「ストレス発散しないとやってられないんだよー!ミナも呼んだしね!」
「子供中心の演奏会だろ!?プロが本域じゃ引かれるぞ」
「ばらけて出るに決まってるだろ!俺リン達と演るつもりだし!」
パチンと電気を消したテギョンは、リモコンを手にスクリーンを指差した。
「こいつを引っ張り出せるか!?」
「え、これ・・・って・・・」
カシャッカシャッとゆっくり変わる音声の無い画面にユンギが釘付けになっている。
「聞くところによるとクラシックアレンジは、プロ級だって話だぞ・・・一度本域を聞いてみたいんだ」
「・・・・・・・・・テギョンが頼めば良いじゃん」
「それとなく頼んだことはあるが断わられた」
「ミナムssiは!?」
「あいつは知らないと思うぞ・・・多分ユジンしか知らないんじゃないか」
「初耳なんだけど」
写し出されるプライベートルームの明らかな隠し撮りの撮影者でありピースサインを向けてお道化ているユジンの姿にテギョンもユンギも嫌気の射す顔で、項垂れた。
「俺もリンと同じで耳だけは良いって自負があるん、だが、そろそろ俺が教えられる技術も感性も限界を感じててな・・・アボジに頼めば誰か紹介はしてくれるだろうが、本格的な指導は望まないし、遊びの範疇だからお前でも良かったんだが、忙しいだろ!?」
舌打ちを噛み殺しながら電気を点けたテギョンは、プロジェクターからカードを引き抜いている。
「一、二年は、そうなるだろうね」
「だから」
「そいつの演奏を聞きたいって事ね」
「お前も聞きたいだろ!?伴奏演らせてるほどだぞ」
ユンギの手の平にカードを預けたテギョンは片頬をあげた。
「妙に癖のある演奏するらしいって事は知ってる・・・んだけどそうだね、そっちも出来るなら聞いてみたい・・・かな」
カードを見つめ握りこんだユンギがテーブルに寄せていた腰をあげている。
「リン君使っても良い!?」
「何故!?」
「泣き落としみたいなものかな・・・アプローチ間違えなければすぐにでも落とせそう」
ポケットに手を突っ込んで立つテギョンを正面に見据え、伏せた目をあげたユンギは、楽しそうに右手を差し出した。
「・・・貸し借りなしだからな!ビジネスライクにしろよ」
「OK!じゃぁ、正式な契約書持って来させるからこっちの話もよろしく!」
結んだ口の端をあげたテギョンは、ゆっくり握り返していたのだった。