いつものスタジオで、リンの言動にミナムが唸っている。
「うーん・・・なにがどうなってるって・・・言われてもなぁ」
「ねーもっとーよーくー見ーてーよー」
長方形の椅子に負ぶさる様に立ち乗ってミナムの肩を揺すぶるリンは、次第に頭も叩いていた。
「・・・何度見てもおかしいと思うところなんて、無い!」
写真を置いてリンの手を取ったミナムは、反撃とばかりに前に抱き込み擽っている。
「絶対おかしいもん!」
「おかしくないものはおかしくない!」
「そんなことないもーん」
「そんなことあるんだよ!大体おかしいっていうならお前の両親の方がおかしいぞ!」
電子ピアノの上に置かれた携帯を手にした。
「普通だもん」
「普通だと思っているのはお前だけだ」
画像検索をするミナムは、ニヤリと頬を上げ膝に突っ伏すリンに見せつけている。
「良いか、この写真はな、そりゃぁ価値のある写真なんだ!貴重な一枚なんだぞー」
眼前の携帯を引っ手繰る様に腕を伸ばして見るリンは、ガックリ首を落した。
「アッパがパネルにしてたー」
「えっ!?マジ!?引き伸ばしたの!?」
「お部屋に飾ってあったもん」
「えーなんだよそれー、ヘイの携帯で撮ったから俺しか知らないと思ってたのにー」
検索を再開したミナムを見上げたリンが、膝の上で立ち上がり両腿を跨いで座っている。
「ねー、だっーてーミナムがあげたんでしょー!?」
「い、んやー、くれてやった覚えはないんだよなぁ・・・見せた覚えはあるけどなー」
「でも、持ってたよー」
「お前かミニョがくれてやったんじゃねぇの!?」
「ひとりで写ったやつだよ!?」
ミナムの腿を叩いて遊んでいたリンは、手を滑らせ前のめりにずり落ちそうな体を支えられ苦笑いした。
「ジュノがユソンに興味があるのは、本当だと思うけどそんなの本人に聞いてみなけりゃ解らねぇよ」
片手でリンを引っ張りあげるミナムは、ガミっと目を見開き肩越しに睨んでいる。
「ジュノヒョンミナムより頭良いんだもーん!絶対教えてくれない!」
「はぁ!?どういう意味だよそれはー!?」
携帯を置いたミナムは、リンを羽交い絞め、拳を振り上げた。
「ガキの癖に妙な優劣判断してんじゃねーよ!」
「痛っー痛いよーミナムー」
頭を挟んでグリグリ抑えつけている。
「ガキは正直なんだ・・・ジュノの方が出来が良いのは本当だろ」
カタンという音をさせドアを開けたテギョンが、ミナムを睨みつけた。
「っんなの解んねーだろっ!あいつは要領が良いだけだっ」
「お前も大概そうだろ」
「何か用!?」
「シヌがミニョとデートとかぬかすからお前も一緒に行け」
廊下に目を向けるテギョンは、ポケットから出したチラシを指に挟んでいる。
「資金なら出してやるぞ」
胸ポケットも探り、財布を見せつけた。
「ヒョンに恵んでもらう程落ちぶれてねぇよ!大体シヌヒョンなら奢ってくれるし」
「アッパは行かないの!?」
ミナムの拳から変えられた手の平にワシャワシャ撫でまわされているリンは、嬉しそうに笑っている。
「行けないんだよ!ったく、どこまでもあざといんだ、あいつは」
通りがかりのスタッフに声を掛けられ腕組を外したテギョンは、二三会話を交わし、ドアに寄りかかった。
「デートったって、ユナssi来るはずだぜ」
「は!?」
「デートはデートだよ・・・初デート記念日だぜ、今日」
無造作に積みあがった書類と譜面をゴソゴソ漁るミナムは、電子手帳を取り出している。
「・・・何でお前が他人の記念日なんか知ってるんだよ!?」
「え、ヒョン達のも知ってるぜ!何なら今日は何の日とか聞いてくれても良いぜ」
きょとんとテギョンを見るミナムは、小さなペンを抜き取った。
「・・・無駄な頭を使うのは天才的だ」
「そーんな事言ってるとヒョンが記念日忘れた数ミニョにバラしちゃうぜー」
左手を大きく掲げ舌でペンを舐める真似でニヤニヤ笑うミナムは、右手を器用に動かし、リンが膝から飛び降りている。
「えーっとヒョンが最初に忘れた記念日はー」
「オンマが忘れてる方が多いと思う」
ビシッと指を突きつけたリンが、ペンを掴み、ミナムが片眉をあげた。
「お前、なに味方してんだよ」
「アッパが可哀想だもん!オンマの方が忘れてる事多いもん」
「おーまえなー、いつ鞍替えしたんだ!?」
操作を続けるミミナムに無視されたリンは、ムッとしながらテギョンを振り返っている。
「くらがえってなーにー!?」
「住んでる家を変えるって事だ」
「テキトーな事教えてんじゃねーよ」
「お前こそ適当な話をリンに吹き込むなよ」
テギョンの脇から廊下を覗いたリンが駆け出し腕を伸ばした。
「乗馬用の鞍を変えるって事だよ」
「お馬さーん!?」
「今度乗りに行くか!?」
立ち止まりリンを抱き上げたシヌは、テギョンに僅かな視線を投げて通り過ぎている。
「おいシヌ!ミナムも連れて行け!」
慌ててスタジオに入ったテギョンは、ミナムの首根っこを掴んで廊下に出た。
「オッパ!?」
端末を持ったまま駆けて来たミニョの腕にぶつかったミナムは、テギョンを振り返って睨みつけている。
「コ・ミナムを連れて行け!監視役くらいにはなる」
文字通りの上から目線で、ミナムを見下ろすテギョンは、猫の子でも放る様にミニョに押し付けた。
「えぁ、じゃぁ、せっかくなのでジェルミも呼びますね」
「ああ、それは妙案だな!お前にしては、良い判断だ」
携帯を取り出したミニョは、ミナムの腕に腕を絡め、首を傾げたテギョンは、何か言いたそうに口をもごつかせ、階段を降りていく皆を見送って背を向けていたのだった。