携帯を指先でスライドさせたシヌは、椅子を回転させテギョンとミニョを見上げていた。
「で、リンを攫われてのこのこ帰るのは、性に合わないのとふたり揃って何かされる想像がつくから今日はもう戻らないってさ」
眇めた目で床を舐めたテギョンは、大きな舌打ちをして呟いている。
「えー、ミナムオッパってば、逃げたのですかー」
「自覚あるなら戻って来い・・・」
頬をぷっくり膨らませたミニョは、開こうとした口をテギョンに塞がれた。
「お前は!?ユンギから何か聞いているのか!?」
シヌに向かって顎をあげるテギョンは、上目のミニョを羽交い絞めている。
「後継問題の事!?」
「知っていたのか!?」
抵抗虚しいミニョの空を切る手を見ているシヌがクスクス笑って作業に戻った。
「知ってた・・・というかいずれ時期がくれば嫌でもそうなるって事ね・・・でもそれも込みで承諾した結婚で昔の女程愛せるかは未知数だけどお前達と縁戚になれるってサプライズは、ビジネス抜きでも欲しいポジションなんだとさ」
「俺もトッキに数えられてるってことかよ・・・」
「打算で結婚した訳じゃないよ」
「知ってる・・・あいつはあいつなりにユジンを大事にしてる・・・昔の女のせいで歪んでると思ってたけどお前の方が重症らしい」
ピタンと手を止めたシヌは、膨れっ面のミニョの顔で遊んでいるテギョンをゆったり振り返っている。
「随分な言い草だなぁテギョン!俺は、至って直進してるぞ」
左手を掲げたシヌを片頬をあげたテギョンが、ミニョの腕を抑えながら見つめた。
「・・・あっちの事務所でぶちぎれてヌナに怒られたんだろ!?」
腕を払ったミニョが、テギョンに口を開きかけてシヌに両腕を引かれている。
「なぁコ・ミニョ新しいスイーツバイキングの店がオープンしたの知ってる!?」
きょとんとしながらシヌの膝の上で頷くミニョは、床を見つめてまた頷いた。
「週末連れてってやる!勿論リンもな!家族団らんしよう!」
ミニョの顔を覗き込むシヌの腕が腹に回りかけた瞬間テギョンの腕が伸びている。
「お前の婚約者と行けよっ」
「えー、シヌオッパと行きたっ」
シヌにかろうじて触れる手を伸ばすミニョは、テギョンに持ち上げられた。
「ふざけんなっ!食い物ぶら下げられるとほいほいついて行きやがって!だから未だにテジトッキなんだよ!」
「オッパと行ってもシェア出来る物少ないのですぅ」
トンとシヌから遠ざかる位置に下ろされたミニョが、振り返っている。
「うるさいっ俺だってお前等に合わせて食ってやってるだろうが!」
ミニョと額を突き合わせたテギョンは、グイグイ押しやった。
「・・・テギョンそれ無理してるって事だろ」
頬杖でニヤニヤしているシヌに黙り込んだテギョンは、溜息を吐き、ミニョを引き寄せながら腕に閉じ込めている。
「ぃいぃやな、こいつの甘い物好きはまぁ人並みだろうから良いとして・・・最近リンの食いっぷりがなぁ・・・」
「ぇえああ・・・」
テギョンに髪を撫でられ、深い溜息と共に落ちて来た頭にミニョも俯いた。
「何か気になるの!?」
顔を見合わせたテギョンとミニョは、揃って深い溜息を吐いている。
「ケーキのワンホール食いとか家でごくたまにはしてたけどミナムが迎えに行くと必ず特大のスイーツ付きで帰って来る」
「ジュノssiのお作りになったものなので栄養面は問題無いのですけど・・・」
「食ってる時間がな」
「早朝だった・・・りするのですよね」
何度も重なる溜息に首を傾げたシヌが、可笑しそうに笑い、テギョンは、口を尖らせた。
「朝ごはん替わりって事!?」
「飯は普通に食ってる」
「朝の秘密の時間が原因かなぁと思ってますけど」
目を閉じたミニョは、項垂れ、痛そうに頭を擦るテギョンも同じ仕種で、暫く考え込んだシヌは、手近な雑誌を捲っている。
「つま、り学校行く様になって昼間出来ないピアノを集中的に弾いたりする結果、糖分足りなくて甘い物ばっかり食ってるって事!?」
「まぁ、そうみたいです」
「エネルギー補給するには手っ取り早いからな、けど飯もしっかり食ってるの見てるとあの体のどこにどう入るんだと思うぞ」
「テギョンが食わなすぎだからだろ」
「俺は自己管理の範疇だ」
「ついでにミニョも管理されてたんだろ!?」
下から覗き込むシヌの視線に背筋を伸ばしたミニョが頷き、にっこり微笑んで親指を立てた。
「あ、でも暫くはお休みになります」
「明日が最後なんだってね」
「インタビューとかはまだ残ってますけど、リンの送迎も出来るので嬉しいです!」
にっこり微笑むミニョは、テギョンに睨まれている。
「じゃぁ、明日以外ならいつでも良いよね!電話して!」
雑誌の見開きをミニョに押し付けたシヌは、電話を掛けながらスタジオを出て行ったのだった。
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