ベッドに拡げた五線紙を足で蹴散らすユジンは、ユンギが差し出していたカップをじっとり受け取って睨み上げていた。
「っとにぃ・・・何でこんなにあるのよー」
「全部見たいって君が言ったからでしょ・・・持って来た俺の身にもなってくれる!?」
ジタバタ続けるユジンを横目にテーブルの複数の箱を指差すユンギもカップに口を付けている。
「だーってー、貴方なら持ってるって言うからじゃないっ!テギョンオッパに頼んだら、ガン無視されたしっ!射殺されそうだったんだもーん」
「そ・・・りゃリンにちょっかいかけるから・・・」
深い溜息を吐きながら首を振ったユンギが、床の箱のひとつを開いた。
「甥っ子可愛がって何が悪いのよっっ!私はあの子が欲しいんだものっ!!!」
ベッドの上を躙(ニジ)るユジンは、ユンギが取り出したCDを引っ手繰っている。
「君、ねー何したか忘れてる訳じゃないよね・・・去年のNYっっ!3日もっ!・・・俺を放り出したのはまぁ良いとしてもさぁ・・・」
端に腰かけたユンギは、うつ伏せで箱を探るユジンの頭に手を乗せた。
「・・・・・・良、いんだ」
うっとおしそうに払ったユジンが胡坐をかいて目を合わせている。
「だってそれ・・・あの時でしょ・・・」
「・・・っぇぁまぁ・・・そ・・・う・・・か・・・な!?」
ジットリ見つめ返されて俯いたユジンは、腹を摩り、ユンギは、腰の横に手を置いて天井を見あげた。
「テギョンが警戒するのも当たり前なんだよねー!君は且ってのスキャンダル騒動、と俺はコ・ミニョssiカムバックにずっぷり関わっちゃったし・・・今だってリンを預からせて貰ってるけど余計なことはさせるなと釘を刺されてたりする」
「へー余計な事考えてるんだぁ」
「そっりゃ大っ好きな才能がよってたかってくれるのに何かしなくちゃ勿体ないって思うのは君も同じだろー」
「オッパは自意識過剰な横柄君でエゴの塊だから気付けないのよー」
「それは言い過ぎっ!あいつは抑えるとこは抑えてるし、ああ見えて怯えてたりするとこもあるから・・・思ってたのと違う方向に進んで結果オーライがいつもじゃ無いって解ってても石橋は叩いて渡るし走らないだけなのっ」
人差し指を突きつけたユンギをジットリ寄り目で見たユジンは、ニンマリしながら握りこんでいる。
「飛び込みって楽しいのにねっ」
傾く首に眉間を寄せたユンギは、目を細めて指を払った。
「注目集め過ぎてスッパ抜かれちゃぁねぇー」
「小さな記事でしょっ」
大仰な溜息にムッとしたユジンが、剥れている。
「ギョンセssiがいたからあれくらいで済んだんだろ・・・テギョンも良く黙ってたよな」
「・・・オッパには、後で叩かれたのっ」
両手を頭に乗せ肩を落としたユジンを見て立ち上がったユンギは、ポットを傾けている。
「リンを欲しい気持ちは解らないでもないけどさぁ・・・あの歳の留学なんて天地がひっくり返ったってテギョンが許す訳ないだろぉ・・君の秘蔵っ子にしたい気持ちってのはものすっっごく判るけどあと数年は我慢したら!?」
ポタる一滴に舌打ちをしたユンギは、キッチンへ向かい、押し黙っていたユジンも立ち上がった。
「だから来たのっ!タイミングも良かったのっ!」
カウンターを挟んで声高に剥れるユジンを振り返ったユンギは、ぶつかる視線を外すことなく湯を注いでいる。
「・・・・・・俺のタイミングは最悪だけどね・・・」
「なーに言ってんの!私との結婚承諾した時からそんなの準備してて当り前なのっ!私は会社に携わる気なんてこれっぽっちもなかったからそういう相手じゃなきゃ嫌だってお爺様にもずーっとお願いしてたんだものっ!」
「・・・嫌いな相手でも」
「お爺様が私の嫌がる事する訳ないじゃない!ジュノの事言ってるならあの人は、悪ぶってるけど結局私と同類なのっトップに立つ人じゃない!傷の舐め合いしただけっ」
絡む視線を先に避けたユジンが背を向けた。
「すっごい自信家・・・」
「なら、ジュノに聞いてみたら良いじゃない」
「君と寝たかって!?」
カチャカチャカップで音を鳴らしていたユンギは、カウンターにポットを置いている。
「聞いてもあの人困らないと思うわよ」
「結局家は大事ってね」
項垂れるユジンが、振り返り、カウンターに身を乗り出した。
「うちのグループはね、あっちの家からしたらそりゃぁ汚い事ばかりしてのしあがってきたってレッテル貼られてるのよ・・・代替わりしてもこれは続くんだろうし、お爺様とあの家の当主との勢力争いなんて私は関わりたくないし、歴史に埋もれる程ならいっそ掘り返さなきゃ良いのにって思うけど、そっちも綺麗にしてくれるっていうなら乗らない手は無いんでしょ!」
口に付けたカップを外すことなくユンギがユジンを見ている。
「他人様の御家騒動の片棒担ぐってのがなぁ・・・」
「貴方から巻き込んだと思えば良いじゃない!主導権渡したくないなら頑張ってよ!」
ベットリカウンターにうつ伏せたユジンは、足をジタバタさせ、上目で見返した。
「ま、あれもこれも渡すつもりは無いんだけどね」
ウィンクでニヤリと笑って飲み干したカップをカウンターに置いたユンギは、ユジンの髪を撫でている。
「・・・どっちが自信家なの」
カラカラと笑ってメインルームに戻るユンギの後ろ姿を見ながらガックリ脱力したユジンもベッド上に戻って行ったのだった。