「こんな時間に呼び出すとかマジ有り得ないんだけど・・・」
買い物袋を手に真っ暗な厨房の電気を点けて回るジュノは、微かな明かりが灯るカウンターに座ったユジンに捻くれていた。
「人妻が出歩く時間でもないだろう・・・」
「人妻だなんて思ってないでしょ!そもそも結婚に反対なんてしなかったじゃない」
「俺とお前の間にそんな文字がなかったからだろ!そういう付き合いもしてなかったし」
「都合の良い相手!?」
「それを望んだの!お前が!」
「だっーてさー忙しかったし、結婚とか本当これっぽっちも考えてなかったのよ・・・」
突き出した小指を親指と擦り合わせ目の前に翳したユジンがウィンクする顔を呆れ顔で溜息を零したジュノが肩越しに見ている。
「相手は、それなりの人間じゃなきゃダメだって、会長にずっーと言われてただろ」
「そんな事・・・ないけど家の事だからそういうものだとは、思ってたかも・・・」
「チャンスは俺にもあった訳だけど・・・ま、俺は特別じゃぁなかったんだろ!?」
カッティングボードにナイフを乗せ調理器具を並べ終えたジュノは、袋を拡げた。
「子供が欲しいと思ったのよねぇ・・・音楽性に優れまくったあーんな子が欲しいってさぁ・・・だっーてーオッパってばこの世の幸せ独り占めしてるみたいなんだもの!」
頬杖突いた顔を明るくなったカウンターに突っ伏して厨房を見ているユジンは、小さく舌を出している。
「人の幸せ羨んでも同じ子が出来る訳じゃ無し・・・アレは、ああいう個性だぞ・・・」
「環境が人を作るってんでしょ・・・オッパと同じ様に育てたってああいう子になるとは限らないってのは解るんだけどさぁ・・・」
「お前の方がもっとすごい子供を育てそうだな」
「オッパみたいな子に育たないかなぁ・・・」
「まぁ、それもありかも・・・お前の環境ってギョンセssiと似たものだし・・・」
「そうなるとやっぱ私もこの子手放しちゃったりして!?」
ちゃっちゃと作ったサラダボールをユジンの横に置いたジュノが、長い溜息を吐いて首を振った。
「生まれもしない子供に何の期待賭けてんだよ!それに!!両親揃って育てたいから国内の活動決めたんだろっ」
「んー、ぁま、そ、れは、そうなんだけど・・・さぁ」
トレイで頭を撫でられたユジンは、額を抑えて口を尖らせジュノの背中を見ている。
「旦那のところに行かない理由は!?」
「んーン、結婚したっていっても別居状態だったから、今更、新婚生活ってのもなーんか違うのよねー子供出来ちゃったしー今んとこお爺様も彼も仕事に夢中だし・・・」
身を起こし椅子を回転させたユジンは、入り口の通電していない自動ドアを押し開けている人影に笑顔を零して、両腕を拡げた。
「そんな当てにならない理由で前彼と堂々と浮気か・・・不貞も甚だしいな!」
リンが通れるだけのガラスを更に押しやりながらテギョンがフロアに入り、ミニョ、シヌ、ジェルミも続いている。
「浮気なんてしてないって言ってるじゃない!結婚したからって男友達とも会うなって言うのっ!それならセオンニにだって言える事でしょ!」
リンと最初のハグを交わしたユジンは、テギョンを押し退けて次々ハグを交わし、きょとんとしているミニョの腕を引いて背中に隠れた。
「時と場所を弁えろって言ってるだけだろ!お前の結婚が世間に秘密でもユンギは公表されてるんだぞ!あいつの立場を考えてやれと言っている!」
リンが引いたスラックスを引き直したテギョンが、抱き上げてカウンターの椅子に乗せている。
「オッパだって秘密にしてたじゃな・・・」
「俺がいつだよっ!」
「え、それはー」
ミニョの手を引いたユジンが、テーブル席を促しシヌとジェルミが、座りながら笑いを殺し、テギョンは、舌打ちをしてミニョの隣に腰を落ち着けた。
「ったく、子供が出来たんなら真っ先に旦那の処へ行け」
「・・・帰国してるってまだ言ってないもの」
「電話するくらい訳ないだろ」
会話に挟まれきょときょとするミニョは、立ち上がったシヌを助けを求める顔で見ている。
「電話しなくても優秀な秘書殿がもう報告くらいしているんじゃないのか!?」
ジュノからリンへワインボトルが渡され、シヌが受け取った。
「ヒジュンssi!?」
ジェルミも立ち上がりグラスウェアのトレイを運んでいる。
「多分な・・・依頼書持って来たぐらいだし・・・」
「それって・・・どういうこと・・・」
サービングを始めたジェルミの肩を叩いたシヌがリンを抱き上げ椅子に座った。
「イ・ユンギssiが会長の後継として近々正式に発表されるんですよ」
テーブルウェアを次々カウンターに出し終え、料理に取り掛かったジュノの背中を驚いて見るテギョン達の横でひとり冷静な顔でワインを飲み干しているユジンをミニョが首を傾げながら見つめていたのだった。