「では、今日は、ここまででーす!次回もお楽しみにー」
「次回のゲストも凄いわよー」
ミナムとヘイがカメラに手を振るこちら側で客前で時計を見ていたスタッフがインカムを抑えて大きな丸を作ったものの数秒後、大きな怒号がスタジオに木霊した。
「痛ぇじゃねーかっ!あっ、何っすっるんだー!!!」
「・・・不審者として通報があった・・・連行させてもらう」
一斉に立ち上がった男女数人が、ひとりの男を取り囲み迫っている。
「あっ!あいつっ!!!!」
咄嗟にミナムに抱き付いていたヘイが指を差した。
「はっ、本番中何もしてくれなくて助かったぜ」
成行きを見ているミナムは、ヘイを引き寄せている。
「なっ、何っ、あんた何したの!?」
一段高く作られたスタジオセットを降りながら、ヘイがミナムを見つめる間、喚き続ける男は、スタジオ出入口から連れ出され、身形の良い男性が近づいて来た。
「ご協力ありがとうございます」
「いや、こちらこそ助かりました!これで暫くあいつに自由は無いですね」
「ええ、身元も特定しましたが、家族も引き取りを拒否しましたので」
身分証を仕舞い込む警察官にニヤリと笑ったミナムの横でヘイはきょとんとしている。
「まー、檻の中で反省してもらうしか出来ないのは辛いんですけどねー」
「手続きされるなら良い弁護士を紹介しますよ」
「あー、それなら、もういるので大丈夫です!徹底的に!!やらせてもらいます」
「そうですか・・・では・・・」
目を伏せてミナムに頭を下げた警官がスタッフや客席にも軽い会釈をして去って行き、スタジオを統括していたサブディレクターが、慌てた素振りでミナムに駆け寄っている。
「コっミナムssi・・・今っ・・・演出・・・じゃぁないですよ・・・ね」
「そんな訳ないですよねー・・・ディレクターに相談しないなんてありえないでしょー」
満面の笑みを作るミナムに気圧される後ろで苦笑いのディレクターが何度も頷いた。
「あんたなら有り・・・痛っ」
口に手を当てたヘイが、腰を摩って振り返っている。
「とりあえず俺達楽屋に戻りますんで!後で話しましょう」
ザワザワしている方向とは逆へ向かうミナムとヘイは、角をふたつ曲がって離れている。
「ちょっコ・ミナムっ!どういうことか説明しなさいよっ!」
立ち止まるヘイを置いてきぼりに後ろを振り返っただけのミナムが、楽屋を開けた。
「説明も何もねーだろっお前困ってたんだろーが!?」
「そ、れは・・・」
鏡を覗き込んでいたミナムは、下に置かれたカバンを開けている。
「で、これなーんだ!」
「何よ・・・それ・・・」
バラバラ封筒の中から更に封筒を取り出しテーブルに投げつけた。
「見覚えあんだろっ!強がんなよな!お前んとこの社長も心配して来たんだぜっ」
扉を閉めたヘイが机に拡がる封筒や葉書、殴り書き同然の紙を呆然と見下ろしている。
「この一年で相当数の脅迫受けてたよなっ!どれもこれも俺と別れろって!!子供も一緒に面倒見てやるって!?ハッ!!ふざけてやがる!」
「そ・・・」
「ウォンとスヨンに何も無いのが唯一の救いだ!けどなっ!」
ヘイが拾い上げかけた封筒をミナムが掌ごと握り潰した。
「なっ、何よー・・・」
ミナムの様子にヘイが後退っている。
「ユ・ヘイssi!?俺って・・・頼りない!?」
ドアにぶつかったヘイは、背伸びしてミナムを見下ろした。
「そっ、そんな事思ってないわよっ!たっただ、ちょっ・・・」
「何かしでかしそうだとでも!?」
握られた手の反対側の壁に平手が押し付けられ、ヘイが喉を鳴らすとミナムが顔をあげている。
「あっ有り得るでしょー!あっあんた見た目と違って容赦ないんだからーっ」
奇声をあげ、ビクビク首を振ったヘイは、ニッと笑ったミナムにキスをされた。
「ま、正しい評価だよな・・・俺って悪い男だしなぁ・・・」
ヘイから離れたミナムは、椅子を引き、ヘイも恐る恐るミナムの前に座っている。
「っていうか、いつから知ってたのよ・・・ス、トーカー・・・」
「お前のマネージャーが、近所じゃなくて地下駐車場迄来るようになってからだな」
「そっ、ほぼ半年以上前じゃないっ!」
「お前妙な言い訳してたもんなー・・・荷物が増えてとか何とか・・・」
テーブルの封筒の日付を一枚一枚読み上げるミナムをヘイが睨みつけた。
「苦労したんだぜー俺と一緒の現場には姿見せねーんだもん」
「だっ、だからあんた今日の仕事サプライズゲストな訳!?」
「ああ、随分追い詰めてたんだけど、中々どいつか絞り込めなくて昨日やっと判った」
不穏な日々を語るミナムの武勇伝をヘイが、溜息交じりに聞いている。
「ジュノに感謝しなくちゃなー・・・けど、あいつの要求って、堪えるんだよなー」
ひとしきりふたりで話終えた後ノックされた楽屋の扉を開けたヘイは、プロデューサーとマネージャーから事情説明を受けていたのだった。