「では、失礼いたします」
「え、あ、ああ・・・」
手の中の封筒を見つめて、恭しく頭を下げロビー前に止められた車に乗り込んだヒジュンと入れ違いに滑り込んで来た車を見ていたシヌは、運転席のテギョンと僅かに視線を交わして舌打ちをし、踵を返していた。
「社長に渡す・・・か・・・」
偶偶そこに居合わせたシヌに押し付けられた封筒には、F・Tの宛名が書かれている。
「ったく、テギョンも戻って来るならさっき言えば良いのに・・・」
ロビーの階段をあがり、どちらに行くかを迷っていた。
「そろそろ・・・か」
ゆったりした足取りで、角を曲がったシヌは、回転扉の音を聞いてロビーに駈け込んで来たリンを呼んでいる。
「アッパも来るよー」
「テギョンに用があったから丁度良かったけど、今日来る予定なかっただろ!?」
「うん!オンマの撮影終わったらお寿司食べに行く予定だったのー」
「寿司ね・・・豪勢な・・・食えない物ばっかりの癖に・・・」
シヌを見上げていたリンの視線が逸れた。
「余計な世話だ!コ・ミニョと交換するから良いんだよ」
「僕としようよ!蟹食べたーい」
「贅沢な蟹じゃなければ幾らでも食え」
「美味しければ何でも良いのですけど」
にっこり顔でお腹を擦るミニョを横目のテギョンが渋い顔で睨み、肩に置いていた手を離している。
「撮影中だってのに現金だな」
「む、だって、オッパが暫く料理しなくても良いって言うからー」
「へぇーそうなんだ」
シヌではない声にミニョが上階を見上げた。
「あれ、ジェルミ」
「久しぶり!元気だった!?」
「えー、いつ帰ってきたのですかぁ」
「昨日だよ!けど、今日はここへ来たらミナムの件で今まで取材受けてたんだ」
「ミナムオッパの!?」
きょとんとしたミニョを渋い顔のテギョンが振り返っている。
「こいつには、まだ詳しく話してない」
「え、そうだったの!?」
「リンは知っているんだろ!?」
「知ってるー」
テギョンの前で階段を駆け上がっていたリンも振り返った。
「アッパがオンマに黙ってろって言ったから何も言ってなーい」
「えー、何でですかーというかオッパ何をしたのですか!?」
テギョンに抱きかかえられたリンが、ミニョを手招いている。
「たいしたことじゃないけど、俺達も何故か巻き添えにされたんだ」
階段を昇りきったミニョは、駆け寄ってきたジェルミに手を引かれた。
「わー、ミニョ!本当に久しぶり!会いたかったよー」
押し倒しそうな勢いで両手を握りこむジェルミにミニョが仰け反っている。
「え、ええ、本当に・・・」
「先月会ったばかりだろう!」
「一か月も会えなかったら久しぶりでしょ!ヒョンみたいに毎日会えるわけじゃないんだから!」
「ソロジャケットと写真集の撮影を海外でしたいって言ったの自分だろ」
「納得出来るものを作って来たんだろうな!」
「そりゃーもちろん!」
自信満々顔で、ミニョと手を繋いだジェルミは、舌打ちをしたテギョンと吹き出しそうな顔のシヌを指摘して笑うリン達の後を追っていたのだった。
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