遠くまで澄み渡る空にもくもく溢れて来る入道雲を寝そべって見上げながら、帰ってきちゃったとまだ見えない人達に伝えていた。
ゆらゆら揺れるバスの中は、前の方に賑やかなグループもいるけれど、そこかしこの人達は一人か二人旅の様で皆目を閉じたり本を読んで思い思いの時を過ごしていた。
流れてゆく車窓の見飽きたものだと思っていた景色もこうしたバスの上から見るとまた違って見えて、オンマが時々僕を連れてバスや電車に乗っていた事を思い出していた。
「お迎えに来てもらえば良いもん」
「そうはいきません!皆さんお仕事中です!リンの我儘で邪魔をしちゃいけません」
「オンマだって、お仕事あるじゃない」
「うーん、でも今日は違いますからねー」
「アッパなら来てくれるよー」
「そりゃぁ、アッパは、来てくれると思いますけど・・・」
僕を抱き上げたオンマはにっこり笑ってこう言ったんだ。
「リンとのデートを邪魔されたくありません!」
それが、どんなに嬉しく擽ったい言葉だったか、オンマの顔もそうだけど、僕と居る時はいつでも僕が一番なんだと実感させられた。
車内アナウンスを聞きながらそろそろ家に連絡を入れようかと携帯を取り出すとタイミング良くベルが鳴り、続いて届いたメールに僕の首が曲がった。
「・・・明日会う筈じゃなかった・・・っけ・・・と」
返信した携帯に間髪入れずに短く返ってきた返事に更に首は曲がる一方だ。
「ったく、何・・・忙しいって言ったのヒョンじゃん・・・どこって・・・」
事務所近くのバス停にもうすぐ着くと返事をした途端、今度は降りろと返ってきた。
「はぁ!?何で!?」
何でと返そうかと思ったけど、あまりに短い文章というより単語に僕は、その場で降りることにして、電話を掛けるとワンコールも待たず慌てた感じのユソンヒョンが出た。
「ちょっと、ヒョン!?何なの!?」
(あ、リンごめん!1、2分で着くから)
話をしてる間に僕の前にワゴン車が止まり、勢いよく開けられたドアにスーツケースごと引っ張られる様に乗せられた僕は、意気衝天ともいうべきヒョンに抱き付かれていた。
「ちょっとヒョン!暑っ苦しい!」
「ヌナ事務所で良いの!?」
「どこでも良いけど事務所の方が衣装は揃ってるわね」
「じゃぁ速攻で!」
急カーブよろしく派手なUターンで、一瞬頭を抱えようとした僕の肩をユソンヒョンが、抱いてくれていた。
「ヒョン・・・説明してよ・・・」
「ああ、ごめん、リンに手伝って欲しいんだ」
「説明になってないし、僕今日オンマ達とディナーする予定なんだけど・・・」
「ああ、テギョンssiには、もう了解もらった!ふたりでデートしてくるって」
「はぁ!?」
「だから、リンは、俺とデートね」
「はへぃ!?デートって男女です」
きょとんとした頭に追い付いた思考がなんて間抜けな事を言っているんだとヒョンの顔をまじまじ見ていたら、グッと顔を掴まれた。
「あー、もうリンって本当に幾つになっても可愛くて!俺の理想だよー」
「はぁ!?ヒョン!頭沸いてないっ!俺は、今攫われてる気分なんだけど!仕事順調過ぎて性格変わったんじゃないの!」
長年連絡を取っていない訳でも無くて、週に一度は、PC上で顔を合わせてるヒョンがそんなに様変わりをしてる筈もないのは、重重承知してるけど、出て来る言葉はどれもこれも間が抜けて、僕は、深呼吸をした。
「ああ、もっちょっと待ってよ、ヒョンに聞いても何か的を得ない・・・ジョンアヌナどういうことなの!?」
運転してる分、冷静だろうジョンアssiに聞くことにした。
すると駐車場へ入れた車のエンジンを切ったヌナが、僕を振り返って教えてくれた。
「えっとね、話すと長いんだけど」
「要点だけ教えて」
「要点はさっきユソンが言ったけど、デートして欲しいのよ」
堂々巡りだと思いながらユソンヒョンに押し出される様に車を下ろされた。
「ま、長いと言っても要は、ユソンの最近の仕事相手が彼に惚れちゃたんだけど、ユソンは今のところ恋人を作る気は無いって断ったのよ!高校生になったばかりだしモデル業も始めたばかりで、他の事等考える余地は無いってね」
スーツケースを引いてくれるジョンアヌナの後ろを僕に腕を絡めてるユソンヒョンとついて行くと事務所の一角にある衣装室に辿り着いた。
「友達でも良いじゃん」
「そうね、でもそうしたら、誰かいるから断るのねって、話が盛り上がっちゃったのよ」
「そんなのあっちの勝手な解釈でしょ!それに普段のヒョンを見せてやれば良いじゃん」
「そんな事したら、仕事も高校生活もやりづらくなっちゃうだろ」
ラックから明らかに女物の衣装を引っ張り出しているヌナに何だかとてつもなく嫌な予感を抱えながらユソンヒョンを上から下まで見回せば、実年齢より年上なモデル然とした少しワイルドに作られた今の姿と普段の真面目そうでしっかりしてるんだけど見た目は抜けてる感じのするヒョンとでは、かなりギャップがあるから仮に学校とかに押しかけられたらそれは、やりづらいかもと納得してしまった。
「で、どこでどうやって手に入れたのか知らないけど、A.N.Jellのコンサート写真持ってきて、この女ねって言われちゃったのよ」
振り返ってウィンクするヌナにこの人も相変わらず綺麗で男って事忘れそうだななんて思って見ていたら、ユソンヒョンにとんでもないことを言われた。
「はぁあ!?」
「だから、会わせたら諦めてくれるのかと言ったらそうするって言うからさ」
「リン相手なら勝ち目は無いと思うわよ!なんたってあのコ・ミニョの娘なんだから!」
「いや、僕は、息っ」
「どっちでも良いんだよ!リンのビジュアルが今すぐ必要なの!」
「うん私的にも数年ぶりにリンに化粧できるなんてこんな楽しい事ないのよね」
「ちょっとーヒョーンヌーナー」
当たり過ぎる位当たった予感は、僕の前にその昔、お遊びで着る事を選択した衣装と鬘がお目見えし、僕の肩をがっくり落としてくれた。
「知ってるのよ!去年のハロウィンパーティに女装したでしょ!アレの再現だと思えば良いじゃない」
「あーれはー、オンマの写真見た向こうの友達に悪乗りされただけでー」
「今の姿と同一人物だと思えないから大丈夫よ!もっと綺麗にしてあげるし」
家に送らなかった写真の出所は、きっとジュンシンヒョンだとユソンヒョンを見れば、その顔がクスリと歪んで肯定されていた。
「ヒョン・・・・・・高くつくよ」
「解ってるって!俺と僕の安寧な日常を守る為に協力してよ」
ミナムの友人にスカウトされる形でモデルの仕事を始め、けれど大学まで行きたいんだと難関の進学校に通って二重生活を選択しているユソンヒョンのどこか譲れない理由がヒジュンハラボジや亡くなったアボジにあるとだけ知っている僕は、それ以上は黙る事にした。
「ミナムじゃあるまいに・・・」
「そういえばミナムssi昨日もミニョssiの服着て事務所の中でテギョンssiに追いかけられてたわね」
「今度はリンを騙してみるとか言ってたよ」
「僕が騙される筈ないじゃん!ミナムとオンマは、似ても似つかないの!」
可憐で清楚な感じのするオンマの姿は、ある種アッパの好みが80%くらいあると思うので、ミナムが真似してるオンマの姿が良いなとジョンアヌナにユソンヒョンと並んでも負けないだけの衣装とメイクを施して貰った僕は、それから二時間後、待ち合わせ場所だというカフェで、気の強そうな女の子と向き合ったのだった。
☆゚・:,。*:..。o○☆
「あーあー、本当に助かったー」
少しだけ、そう、ほんの少しだけ泣きそうに歪んだ顔を一生懸命取り繕って、仕事は今まで通りしたいですと笑顔で突っ張って帰って行った女の子に微かな罪悪感みたいなものを感じたけれどユソンヒョンのほっとした顔を見たらそれも吹き飛んでいた。
「良かったね」
「ああ、リンにも悪いことしたけどな」
相変わらず僕よりは頭一つ背が高いヒョンの頭の上に乗る手に確かにこうして並んで歩いてたらそう見えるかもと妙な納得に苦笑が漏れた。
「何!?」
「うぅんヒョンも大変なんだなと思っただけ」
「お前程じゃないけどね・・・コンクール残念だったな」
「え!?何で知って」
「お前達の事ならちゃんとチェックしてるよ!なんてったって俺の一番大事な幼馴染達だし、何年たってもあの夏は、特別な夏で、あれがあったからお前はアメリカに行った訳で、でもセンチメンタルは、ふたりの傍じゃないと治らないだろ」
ユソンヒョンの携帯が鳴って、キョロキョロしたヒョンが手を挙げると見慣れた二人連れが僕たちの前に近づいて来た。
「おっ前、まさか癖になってるんじゃ」
僕を見るなり事情を知ってる癖に相変わらずの憎まれ口のアッパに自然唇が突き出た。
「ずぇーったいにありませんっ!」
拳を握り締めアッパを見上げる僕をオンマがクスクス笑った。
「お前そっくりだな」
「こうじゃなかったらオッパにそっくりなのに」
「ま、デートも出来たし、少し遅めの夕食にするぞ」
「ユソンも行きましょ!ヒジュンソンベはお元気なの!?」
振り返り振り返りユソンヒョンの近況に耳を傾け、時々アッパの憎まれ口の揶揄に剥れたり微笑んだりするオンマの背中を見つめながらコンクールの次点で優勝できなかった悔しさに強行日程でも帰ると言った僕に何も言わなかったアッパと思いがけず気を紛らわせてくれたユソンヒョンの優しさを噛み締めていた夜だった。
★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★
タイトルについて補足んc(゚()゚*)ノ
光学現象の中でも二重の虹というものは、滅多に見れない気象の一つ。
その中でも条件が揃わないと見られないふたつの虹の間を古代ギリシアの哲学者の名前から”アレキサンダー(この人の場合そこに住んでたという意味で正確な人名ではないのよん)の暗帯”と呼びます。
この部分こそ本当の空の色だと言われてるo(^▽^)o
だって宇宙って太陽なければ真っ暗だもん
なんて話をしたら空の青さについて突っ込まれたりして(笑)
太陽は七色の光を放っているけど地球の周りの塵芥によって、弾き飛ばされたり、残ったりする光が、目に見える空の色を変え、紫が一番最初に消えてしまう光色。
紫外線は見えないけど春夏秋冬気を付けた方が良いって特に女性は、気を付けてる人も一杯いるよね(´∀`*)
とはいえ、この暗帯そのものというよりも二重の虹とユソンの二重生活を掛けて書いてたお話なので真相というのもまたちょっと違う気もしてますが、このBluesky&Sunshineは、気象に引っ掛けてあるのでこれで決めました(-^□^-)
最後まで読んで頂いてありがとう(^-^)
また遊びに来てね(^^)/
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