部屋の中心にドンと設置された丸いテーブルも兼ねた厨房から時間差で出される料理に舌鼓を打つヘイは、満足そうにミナムに微笑んでいた。
「うーん、どれもこれも美味しい!ミナムあんた良い友達がいるのね!今度家に作りに来てくれない!?」
ヘイの軽口にミナムがぎょっとしている。
「おいおい辞めてくれよ!こいつ金に関しちゃ結構シビアなんだぜ!とてもお坊ちゃまとは思えないんだから・・・」
「あら、お坊ちゃまなの!?」
「いいえ、しがないいちシェフです」
ジュノの返答に眉根を寄せたミナムは、辺りを見回して背中に声をかけた。
「なんだ!?」
「いや、今日さお前の店行くつもりだったのにここへ来いって言われただろ!?てか何でここだよ!?びっくりしてたらお前、後で話すって電話切っちまったじゃん」
立ち上がったミナムは、嵌め殺し窓の前に置かれたベンチに向かっている。
「ああ、だって、ミナム最近またよくここに来てるだろ!?ミニョちゃんも来てるんだよね・・・だから、まぁもう良いかと思ったんだ」
「何が!?」
「隠してた訳じゃないけど俺・・・ここの会長の専属シェフしてるんだ」
「あ!?」
顰めた顔を外景から戻したミナムは、ベンチに腰を下ろした。
「え!?誰が!?」
「俺」
「へ!?」
「誰の!?」
ジュノの給仕にヘイがグラスを差し出している。
「ぁえー!?いつからだよ!」
「数年前・・・モデルの仕事セーブし始めた頃だから・・・」
指を折るジュノにミナムが増々眉を寄せてモノを投げる真似をした。
「おっ前何も言わなかったじゃん」
「ああ、ミナム結構上の階で俺の料理食ってる割に気付かないもんだなぁと、思ってた」
「え、ってことは、この部屋・・・雑誌に載ってた・・・」
「パーティ用の会議室兼俺の研究室だからね!厨房設備以外何も置いてないから撮影場所にも最適なんだよ」
チーズの盛り合わせを取り出したジュノは、口に放り込んでいる。
「随分贅沢な会議をするんだな」
「料理なんてホテルとか外から運ばせれば良いのに」
「このビルグループ全部の中枢だぜ!会長も老齢だし時間の無駄は省きたいんだってさ」
「それで、シェフ呼んで部屋提供かよ」
「俺ばかりじゃないよ!諸々の事情で集められたシェフ達は、皆この階に部屋持ってる!いつもイタリアン食いたい奴ばかりじゃないだろ!皆、他に店もあるし、俺のバーも開店休業だけど営業してるんだぜ」
「あー、ミナムの隠れ家ね」
ヘイがチーズの皿を引き寄せた。
「てゆーかさ、あのファン・テギョンssiが、ミニョちゃんの復帰後の仕事に俺相手で即OKしたのは、何でだと思ってた訳!?」
「あ!?だって、それは、ミニョの最初のドラマがお前とだったし、俺のタンチャク(唯一無二の親友)だって知ってるじゃん」
「スキャンダルになりかけたのに何で俺との仕事をすんなり受けてると思ってるの!?」
「あー・・・Fグループ絡みの仕事だったんだ・・・」
納得顔で戻って来たミナムは、ジュノに酒を要求している。
「・・・お前、確かユジンssiと付き合ってたよな」
「あれは虫よけ兼ねたプラトニック、お互い家の為の結婚は無しって決めてたの」
「家柄的には、お前ってむしろここん家にとっちゃ最適な相手だったもんな」
「ユジンにその気は無かったし、俺も口説く気なかったよ!あいつ、ああ見えて気が多いしテギョンssiの恋愛に憧れてたぜ」
ジュノが数本の酒瓶とグラスをテーブルに置いた。
「て、ゆーかヒョンも知ってんだ」
「そういうこと」
「旦那は!?」
「知らないだろ・・・俺と会っても何の感慨もなかったし」
「っぁち、会ったって!?」
テイスティングした一本に苦い顔をしたミナムは、ジュノの言葉にも驚いている。
「リンを迎えに行ったときに会ったって!言っただろ」
「え、あー、そ、ういえば・・・」
「ヘイssiの話しか聞いてなかったな・・・」
ミナムが選んだ一本をヘイの為に用意したグラスに注いだジュノは、新しいグラスをふたつ置いた。
「あー、ま、そうだよ・・・俺にとっちゃこっちが大事だからな」
「ふーん・・・ミニョちゃんより」
「当ったりまえっ」
「嘘・・・未だにシスコン」
グラスをかち合わせニヤリと笑いかけたミナムが横を向いている。
「時と場合だろっ」
「頭切れすぎるのよね!浮気も出来やしない」
「ストーカー相手にするつもりだったのかよっ」
「しないわよ」
グラスの淵でヘイが笑った。
「頼りになるって事だな・・・という事なので奥様、出張はいつにしましょうか!?」
「そうねー」
「!?」
ヘイの前に拡げられたカレンダーとスケジュールにジュノに抑えられてしまった頭に身動き出来ないミナムは、キーキー吠えていたのだった。