片耳に充てていた携帯を肩で挟みこみ机を物色するユンギは、目当ての写真を見つけて頬を緩めた。
(ねー、ねー何度も聞くけどさー、本当に良いのー!?)
向こう側から聞こえる声におざなりな返事を返し、フォトフレームを開けている。
(そ、れは、ねー、貰ったら絶対喜ぶと思うけど・・・どー見ても前のより大きいよ)
「チビが何を覚えてるんだよ・・・俺が最初にプレゼントした物に間違いないの!」
(学生のバイト料で買える大きさじゃな、い、よ、ねー)
「そりゃそうさ、俺達の年月分だけ上乗せしてあるからな」
(えー、やっぱり1キャラットの上なんだー)
「欲しいとか言うなよ!お前はヒジュンに買ってもらえ」
(そーするー、これ貰っちゃったら私がユンギにプロポーズされたみたいで気持ち悪いもん)
楽しそうな笑い声と共に切れた電話を見つめたユンギは、溜息を吐いて机に置かれようとした書類を受け取った。
「ミナですか!?」
ヒジュンの苦笑交じりの呆れ顔に頷いて立ち上がっている。
「置いていったネックレスを送り返した・・・一緒に葬ってくれと手紙も添えてな」
「ご自分で行きたかったのでは!?」
「ああ、そうしようかと思ったけど、スケジュールも詰まってるし、何より・・・」
数枚の紙に目を通し、一枚をヒジュンに戻したユンギは、タンブラーを手にして窓に近づいた。
「さよならを言えたんですね・・・」
短い返事をし遠くへ目を向けている。
「結婚も決めた・・・オモニもアボジへの肩の荷が下りたと喜んで・・・過去も封印したし・・・」
踵を返しかけたヒジュンが立ち止まりユンギに目を戻した。
「時々は思い出すんでしょう・・・・・・」
「当り前だ!彼女がいなかったら俺ここで社長なんてやってないんだぜ!という事は今のお前も無いって事だろ」
肩越しにヒジュンを睨むユンギは、自嘲的に笑ってまた外を見ている。
「ファン・テギョンには感謝しかない・・・コ・ミニョssiに曲を提供出来ただけでも俺のケジメとしては、最高のタイミングだったのに・・・素晴らしい数か月だったな・・・」
聞こえるとも為しの独り言を聞きながらヒジュンが扉を閉めた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
「オッパ早く早く―!!!」
テギョンの手を引くミニョは、焦りから躓きそうな腕を引き返されていた。
「ったく、俺の憩いの一時を・・・どうしていつもこうなんだっ」
「オッパが迎えに行かないって言ったからじゃないですかー」
睨まれて小さな謝罪をしたが、腰を抱かれて睨み返している。
「俺のせいだというのか!?」
「そんな事言ってませんよー、日本から帰国した時に迎えに来なくて良いって言ったのリンですもの」
ゆったり歩くテギョンに歩幅を合わせたミニョは、きょろきょろ辺りを見回して手をあげた。
「来たのか・・・」
ユソンと手を繋いだヒジュンがリンを抱いたギョンセの肩を叩いている。
「ソンベ・・・ソンベも見送りですか!?」
「ああ、ユンギが来れないと連絡があったからジュンシンを送りがてらにな」
テギョンの戸惑いをヒジュンとギョンセが一笑した。
「アボジどういうつもりです!?」
「私は何もしてないよ・・・ジュンシンはリンを連れて帰りたいって言ってたけどね」
尖らせた唇を動かしていたテギョンが、リンを下ろしたギョンセを直視している。
「ということは・・・ファン・リン!お前か!」
下げた視線でジュンシンと抱き合っているリンを見た。
「違っうもん!ハラボジのお家に行っても良いけど、それだとオンマに会えないから嫌っ!って言ったもんっ」
「えー、俺と一緒に留学しようぜー!」
ユソンと手を繋ぎジュンシンに抱き付かれたリンがテギョンを睨みあげている。
「ふざけんな!ガキだと思って調子に乗るなっ!こいつはまだお前より小さいんだぞ!」
手を伸ばしたテギョンが、リンを奪って抱き上げジュンシンと睨みあった。
「コ・ミニョよりファン・テギョンの方がリンを溺愛してるんだな」
「ああ見えて大事な一人息子なんだ」
「ちぇっーリンと一緒なら絶対楽しいと思うんだけどなぁ」
テギョンを見上げるジュンシンの上で搭乗アナウンスが流れ、ギョンセが掲示板を見つめている。
「夢の時をありがとう」
伸ばされた手を握り返したテギョンが頷いた。
「また、来てください・・・俺もまた、お邪魔します」
「次はピアノの独奏を聞かせて欲しいね・・・式で弾いてくれるんだろ!?」
「丁重に断りましたよ・・・自宅で良ければ幾らでも・・・」
「僕が弾ー」
両手を上げたリンの口をテギョンが塞ぎ、ギョンセが忍び笑っている。
「さよならだね、でもまた会う為の言葉だ」
「ええ、ユンギに振り回されましたけど、あいつの気持ちも落ち着いた様ですし、今回のコンサートは、大変有意義でした」
テギョンの横に立っていたミニョとも握手を交わし、ヒジュンと抱き合ったギョンセがジュンシンを促した。
「アボニムまたチケット送って下さいね」
「ああ、テギョン無しで遊びにおいで、次は、ヨーロッパの予定だからね」
「リーン、ユソンもーまたなー!次はもっと楽しい事しようなー」
「「また遊ぼうねー」」
搭乗口に向かうジュンシンに手を振り、軽い会釈をしたギョンセに目を伏せて挨拶をしたテギョンとミニョとリンの一言で始まった子供達の夢とユンギにとってもヒジュンやギョンセにとっても長く長く抱えていた夢に終止符が打たれた一時の別れであった。
────終────
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