「「「「「「「「せーのっ!みんなーおっ疲れ様ー」」」」」」」」
壇上のジェルミとミナムが叫ぶ音頭にグラスを掲げ、ここまでの数か月、数日と今日迄を労い、ステージ上のハプニングに焦りを感じた者、想定内だったと話す者と出演者やスタッフ達が、そこかしこで食事や談笑を楽しみ始めた中、テギョンはひとり、壁際の長椅子に身を寄せ額を隠して目を閉じていた。
「ねーねー、アッパー、寝ちゃったのー!?」
すっかり衣装も化粧も落としたリンが、爽やかな顔でテギョンに抱いてくれとせがんでいる。
「あぁあ、い、や、疲れてるだけ・・・だ」
リンを膝に横抱きにしてまた目を閉じたテギョンは、すぐに薄目を開けた。
「・・・どうした!?」
しがみ付く様にテギョンの胸に凭れかかったリンが、首を振っている。
「うぅん・・・あの、ね・・・楽しかったのー」
言葉と声の裏腹さにテギョンがリンの顔を覗き込み額に手を当てた。
「熱・・・は・・・ないな・・・眠いのか!?」
目を閉じたリンは、テギョンの二の腕を押し上げ胴体に腕を回している。
「ハラボジがねー、ちゃーんとお礼しなきゃなーって言ってたから僕も何が良いかなーってずーっと考えてたー」
「あ!?アボジが!?」
「うん、アッパにふたん一杯かけたから何かするって言ってたよー」
「っ、何もしてくれなくて良い・・・放っておいてくれるのが一番だ・・・」
長い溜息を吐いたテギョンを顔をあげたリンが見上げた。
「オンマも!?」
首を傾げるリンを薄目で見下ろし頬をあげたテギョンが、ゆったり身を起こしている。
「ミニョは、別だな・・・俺を無視するなら潰してやる」
小聡い笑みを浮かべてリンを抱きしめた。
「乗っかるの!?」
「ああ、上から押し潰すんだ!身動きできない様にな!」
じゃれあうテギョンとリンの前に足音が三つ立ち止まっている。
「ったく、子供相手に何て事言ってんだろ」
「あれも日常会話だとしたら、リンは相当厭らしい大人になりそうだ」
「子供の教育には良くないと思うよね」
「やっぱり、俺達がいて良かったぜ!ヒョンに子育てなんて無理だと再確認だな」
テギョンに背を向けシャンパングラスをかち合わせた。
「コ・ミナムが妙な事を吹き込まなければ問題ないんだよっ」
舌打ちをしたテギョンはリンを抱え直している。
「俺っ!?俺は、別に変な事教えてないぜ!俺のせいにするなよなー、ヒョンがミニョばっか大事にし過ぎるから可笑しなことになるんだよっ」
「大事にして何が悪い」
「愛及屋烏(あいきゅう・おく・う中国の故事=愛しさのあまり屋根に止まるカラスも愛しい=べた惚れ)だっつーの!ミニョの我儘が増々エスカレートしちまうだろ」
テギョンとミナムの揶揄いあいを聞いていたシヌとジェルミが、打上会場を見回し、歩き回っているミニョを見つけて指を差した。
「ヒョンの代わりに挨拶回りしてるし、何だかんだヒョンの事一番解ってるんだよね」
「近づくなオーラ全開だもんな・・・現に一番疲れてる」
グラスを口にしてクスッと笑って振り返ったシヌをテギョンが見上げている。
「明らかにお前達が疲れさせてるだろっ」
「あー、そうかも、でもさーヒョン、これだけはやっぱり直接言いたいんだよね」
数歩下がったミナムがシヌとジェルミと並びグラスを掲げた。
「「「お疲れ!明日からも宜しく」」」
「A.N.Jellは、中心にお前がいなくちゃ成り立たないからな」
「ヒョンの新曲やっぱりどれも感動ものだったし」
「もう少し練習とパート減らしてくれると有難いけど」
「リンの為だったにせよ、テギョンの全力に俺達も刺激された訳だし」
「ユンギssiに踊らされても・・・」
「ソンベやギョンセssiに邪魔されても」
返答など待たず、話を盛り上げる三人は、何度もグラスをかち合わせ、ピタリと話を止めてテギョンに向き直っている。
「ファン・テギョンの仕事は完璧だった」
黙って聞いていたテギョンの低音が更に低く響いた。
「お、前等・・・何が狙いだ」
頭を抱えて顔を顰めたテギョンを見下ろしていたジェルミが振り返っている。
「さっき、そこでミニョに聞いたんだけどさー」
「テギョン、一か月休むんだろ!?」
「と、いうことは、俺達も休んで良いって事だよねー」
ヒクリと頬を震わせたテギョンが、目を剥いてゆっくり顔をあげた。
「ジェルミっ!ラジオは録音にしてもらおうぜ!」
「あー、賛成!それならバカンス行けるもんねー」
ジェルミの腕を素早く掴んだミナムがスキップで駆け出し、シヌがテギョンに新しいグラスを差し出している。
「俺は、ドラマのインタビューが数社あるから、その後で調整させてもらうかな・・・会えるのは一か月以上後だな」
カチンとテギョンに持たせたグラスを鳴らしたシヌも背を向けた。
「な、ちょ、ちょっ待てっおまっ」
唖然と腰を浮かせたテギョンは、しがみ付いていたリンに目を向けている。
「アッパ僕はねー、ハラボジのとこお泊りする―」
「は!?ぇ何!?」
「一週間だけオンマあげるねー」
「えっ!?おっ!?リンっ!?」
大きな欠伸をひとつしてムニャムニャ口を動かしたリンを見ていたテギョンは、溜息を吐いてその背中を柔らかく叩き、聞こえ始めた寝息に口元を緩めた。
「眠ってしまったのかい!?」
シャンパンボトルを手にしたギョンセがテギョンの横に腰を下ろしている。
「アボジ、何日迄こちらに!?こいつとの約束なら忘れて頂いて」
「せっかくの孫との時間を取り上げようというのかい!?」
「そういう訳じゃ・・・」
酌を受けたテギョンは、横を向いて飲み干した。
「ユジンのコンサートに行きたいと言っていたからね」
ポケットを探るギョンセの手の先を見たテギョンは、また目を剥いている。
「・・・ど、こに行く気です・・・」
「ちょっと日本まで・・・だね・・・すぐ帰れるだろう」
数枚のチケットを凝視してクスリと笑ったギョンセは、呼ばれて手を振った。
「俺も連れてってもらうぜー!」
「僕も招待して頂きました」
「付き添いは俺!ね!」
お菓子を抱えたジュンシンとユソンがユンギと立っている。
「いつの間に・・・っていうかお前あれと結婚ってやっぱり本気か!?」
会場の一角に貼られたポスターに目を向け満面の笑みで頷いたユンギは、眠ってしまったリンを盾に嫌がるテギョンに今日という日の成功を祝おうと延々話続けていたのだった。
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