満足ですか、と喉にかかった声を呑み込んで、その顔を撫でてみた。どうした、と重なり、返されるその、なんとも言えない暖かく掠れた声にこの人もまだ苦しんでいるのだとそう思っていた。
『泣・・・か、ないで・・・』
涙が零れた訳では無かった。私も彼も。唯、その胸の内で熱く燃え続ける塊が、じわじわと体を心を焼き続けている。
『泣、かないで・・・ください』
泣いていないと何度も返され、それでも泣かないでとしか言えない私の且つての想いがこの人に伝わったのかは判らないまま再び眠りに落ちていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
泣かないで、と、それは、あの頃から何度も聞かされた台詞だ、と、あの頃は責め立てる事も出来ない俺の下で、今は、俺を抱きしめ俺の下で啼きながら会えない事を謝るお前のそうお前のお前自身を責め立てる思いなんだと俺はそう思っていた。
違うのか、そう聞こうとしても閉じられた瞼と健やかな寝息にどちらでも良いと思い直してその手を握り続けた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
泣かないでとそう聞こえた微かな声に病室の前で足を止めていた。泣かないで、それは、俺も、何度も聞かされ、泣いても良いと何度も返したそんな言葉だ。
お前は悪く無い。悪い女だと責め立てた俺とテギョンと。そうなることを解ってなかった訳もなく、そうなることを望んで、唯、どちらがよりチャンスをモノに出来るかを見えない場所で感情で争い、一時は、どちらもお前を失った。
もっと話しあえば良かったですね、と、再会した時に言われた。そうだろうか、話し合った所で、結末は変わらなかっただろう。むしろもっと酷な結果を招いていたかもしれず、このままが良いと誰も彼もが判断し、抜け出したお前のその行為を勇気とは呼べなくて、かといって裏切りでも無くて、俺は、諦めるという事を諦めた。
泣いていたんです。と先程のテジュンの言葉を思い出し、傷つくことを選んだあの頃は、もっと冷たい涙が流れていたと思っていた。
『ああ、そうい・・・うこと・・・か・・・』
愛憐もまた悲しく傷む。
愛おしさと憐れみとそのどちらがより強いかと、それをずっと確かめ続けてきた俺達の関係。
変わるのだ。もう一度。
俺も手にしたテジュンと同じ存在。
そこには、きっと愛しかない。
それを噛み締め病室へ足を踏み入れた。
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