久しぶりに降り立つそこは、独特な空気感で俺を迎えていた。且つて、ここへ立った時、あの時は、もっと生温い風を感じて、今は、それよりも爽やかだが、何度、何度追いかけたか判らない。
手放せなかった。
手放したくなかった。
だからここへ戻って来た。
そんな事を考えながら見上げた空は、今と同じように澄んでいた。
『チッ!裏腹な天気だ!』
晴れ晴れした空は、これからしようとしている事への戒めにも見えた。だからこその八つ当たりで、
そんな事は、重重承知していたが、止まらない苛々を電話に出遅れるシヌにもぶつけていた。
『ったく、お前、明日も仕事なんだろう!?』
(キャンセルしたさ。しかしお前、本当にやるつもりなのか!?)
『ああ、あいつには、正攻法で立ち向かった処ではぐらかされるだけだ。俺達の契約は、そういうものだろう。秘密を作るなと秘密を持つくらいならっ俺でもお前でもどっちでも良いから話せとそういう契約をしただろう!』
(っとに・・・・・・お前らしくて嫌になる。それが出来なくてミニョは、悩んでいるんだろう・・・)
『あいつの悩みなんて間違いだらけだ!端から俺に聞いてれば、お前がしゃしゃり出て来ることも無かっただろう!』
(今っ更っ・・・お前が遠ざけたのが原因だ!守り方を間違えた癖に偉そうに言うなっ!)
『・・・ふっ、ん・・・それは、散々反省した・・・お前に縋ったあいつの気持ちも判ってない訳じゃない』
待ち合わせ場所を確認して切れた携帯から暫く目が離せず、シヌの言の刃に高まったその音に更に募らせた苛々に任せて歩き出していた。
『チッ・・・どうしてやろう・・・』
★★★★★☆☆☆★★★★★
撮影の合間に携帯の名を見て物影を探していた。すれ違ったスタッフが、休憩だと伝えてくれたことにほっとして、歩きながら通話ボタンを押し、耳に届く声に舌打ちが出ていた。
こいつはどうしてこうも自信過剰なのか。
それは、それこそが、不安の裏返しだと、そう見えることが、こいつの鎧なのだと気付いたのはいつだったか。
そう、あれは、あのパーティの後、そう、初めてミニョを抱いた後だったな。
そんな事を考えながら、一方的な苛々をぶつけて来る声を聞いていた。
なら、あいつに俺は、どう見える。
俺にはあいつは何でも手に入れて行く様に見えていた。
それが、それこそが間違いだと教えてくれたのはミニョで、俺に身を任せていることを知っていた癖に俺に抱かれた後だと知っていたくせにより酷く、より鮮明にミニョを泣かせ、より懸命に縋っていたのは、むしろこいつの方だったな。
そう、あの頃の俺達の関係は、今より、今ほど幸せでは無かったからな。
素通りしていく声を頭に響く声を一笑して、こちらの知りたいことだけを確認した。
お前の考えは、解っている。
お前と同じだけのモノを俺も欲している。
お前と。
そう、お前だけにそれを渡す気はさらさらないとそんな想いを込めて携帯を切っていた。
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