順調ですよに礼を言って出てきた廊下で、待っていた老医師の部屋に案内されていた。
『アメリカでしたら、可能でしょう。ただ、手術費用は、かなりな高額になりそうですよ・・・』
『大丈夫です。諦めるのは、どうしても嫌、なのです・・・』
こちらの意思をどう汲まれたか、困った様に笑った医師が、続けた。
『何より貴女を諦めない事が一番大事です』
『・・・ええ、それで・・・あの・・・』
『ああ、鑑定結果もこちらに』
差し出された封筒は、ヨーロッパから。
この中に。
この中で。
これで、これで全てが決められる。
そう思いながらそれを抱きしめる私に医師が、こう言った。
『あの時の男の子も・・・元気な様ですね・・・』
朗らかに嬉しそうに笑ってくれる医師に笑顔で頷いた。
『善い方に育てて頂いてます。あの時、先生に会えなければ、私もあの子も・・・』
『礼ならば、妻に言ってください。君のお蔭で私達の今もある』
互いに譲りあう言葉の中で、そこに押し込められた感謝。それが私の私達の運命を変えた。あの時、諦めていたら、あの頃、そう、あの頃の、ただ、礼を述べただけの、ただ、それだけの上辺の気持ちは、正直、底辺に何故、助けたのか、助けられたのかという凶器にも近い感情を有して、あの子をテジュンを産みたかったのにいっそそのまま狂気になってしまいそうな程、張り詰めていたそれを打ち消したのは、この医師の言葉とアジュンマのドレスだった。
『『幸せですか!?』』
重なった言葉尻に互いに笑いあい、私だけがそう、私だけが、辛い訳じゃないと医師に頷いた。
『はい。今は、素直にそう言えます』
★★★★★☆☆☆★★★★★
テギョンからの連絡を受けた時、一瞬の躊躇いが無かった訳じゃない。ただ、そう、あの頃それを受け入れられなかったかといえば決してそうでも無かったと思い直していた。思い詰めるミニョのあの頃のその気持ちを感情を俺という容器(いれもの)で解消していると知っていてもそれを手放せず、テギョンのあいつの俺を見下ろすその瞳の奥に宿る苦悶と煩悶(はんもん)と俺の内にも同じものがあって、誰も彼もそれを胸に抱いて苦悩して、ただ、詳(つまび)らかな解決策が無い中で、一歩を踏み出したミニョの背中に縋って、悪女だと言ったテギョンも結局は、それを欲して悪い男に成り下がった。俺は、俺は、どうだろう。俺の方がきっとテギョンよりも先に悪魔であったろう。だから、だからこそ、その提案をテギョンの提案を再び受け入れることにした。
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