その内容のテギョンの怒号にキリキリ痛み始めた内臓のそこを食い破ってきそうな塊をようやっと吐き出し、整える息の中で広がった苦みを渇いた喉に落していた。
『ど・・・っういう・・・ことだ・・・』
『余命宣告だっ!!!』
『ばか・・・な・・・』
これが今朝ほど感じた違和感かと子供が出来たと含羞(はに)かんで話してくれたミニョのけれどどこか、そうどこか、薄暗く見えた瞳のその濁っている様な澱みに俺は、不自然さを感じていたのだと悟っていた。
『正確には、子供を選べばということの様だ・・・』
カサカサとテギョンの手元で拡げられる紙に封筒にそれが開かれるのを呆然と見ていた。
『子供のDNA鑑定を頼んでいたらしいな・・・』
頭に響く、警鐘というのか、ゆらゆら揺らめく波は、考えようとすることを打ち消して、何か、そう、何か掴みきれないモノを押し上げては、沈めていた。
『お前・・・・・・と俺の子だ・・・』
テギョンの息を呑んだ音がやけに大きく聞こえ、けれど冷静に見えるその顔にようやっと一つ深い呼吸をしていた。
『双子なのか・・・』
『稀少な例だな・・・昔どこかで聞いた事があるから無い話じゃぁない・・・』
画面に映し出されるツインのその文字の、ひとつは、限りなく合致していて、ひとつは、していない。
『子供を取るということか・・・』
『あいつの考えそうな事だ。ましてひとりは確実にお前の子だからな・・・』
テジュンを産む時にどちらの子か判らなくて、でも、どちらの子でも良いとそう思いながら、でも、少しだけ、ほんの少しだけ思っていたのです、とそう言ったミニョの声が脳裏を掠めていった。どう言った。少しだけ、ほんの少しだけ、ミニョは、あの後何を言ったんだと、それを思い出しながら、こちらを呼ぶテギョンに曖昧な返事をしていた。
『ど・・・うする!?』
『どうする!?決まってる!!!』
★★★★★☆☆☆★★★★★
『チッ・・・』
シヌと話しながら、クローゼットからスーツケースを引っ張り出した俺の目には、テジュンの翳った顔が覗いているのが見えていた。
昼食を放りだしてきた事を思いながら、それでもこちらがより大事だと追いやる様に手を振れば、俯いた顔が見えなくなっていた。が、しかし、思い直した様な顔で、唇を噛み締めて戻って来たテジュンは、俺を真っ直ぐ見据えた。
『何だ!?』
『ママに何かあったの!?』
手元は止めず、旅の支度をしている俺に一瞬の躊躇はあったもののミニョの事を聞いてきた。
『たいした事じゃない』
そう、たいした事じゃなかった。手紙を見る限り、子供を産むことを止めさせれば良いとそれでも産みたいと言うのであれば、それは、それで、俺が出来ることをするだけだとただ、ミニョにミニョと早急に話をしなければならない。
『本当に!?』
念を押すテジュンの気持ちを慮れない訳じゃない。けれど、だからといって、どう説明をする。ミニョをコ・ミニョを母と認識しているテジュンのそれは、仮初めの、そう今は唯、俺に会いに来る女というだけだ。
『心配するな。あいつは、自分を後回しにする癖に突拍子も無い事を思いつく奴なんだ。事故多発帯だと教えただろう。事故を起こす前に止めに行ってくる』
そう、これは、とんでもない事故だ。お前、俺の誘惑に乗っただろう。変わらない気持ちを想いを確認しただろう。俺が、そう、俺が、何より求めているのは、お前だと、あの時、それを受け入れたのは、お前だろう。そんな事を思いながら、スーツケースを閉めれば、テジュンが、俺の手を握って笑った。
『パパなら、大丈夫。だって、ママが好きなのは、やっぱりパパだもん』
だから、また連れて来てねと。それが、どういう結果になるか。シヌの存在を知っているテジュンにまだ、理解は難しい。いつか、いつか、それも話さなければならない。しかし今は、何よりミニョの事を思いながら飛行機に乗り込んでいた。
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