行ってくると私を気遣ってくれる言葉と抱きしめてくれる腕と上手く笑えない顔をその胸に埋めて見送りの為の玄関で、何か言いたそうに動いた唇にキスをした。大丈夫と返せば、連絡をする様にと念押しされた。
『テギョンにも連絡するよ。今後の事も話し合わなくちゃならない』
『ぅ・・・ん・・・』
『そんな顔をするな。行けなくなる』
強く、絡みつくその腕のこの腕の中は、安心なのに切なくなるのは、抱えた不安の全てを話せていないからで、妊娠は、なんということは無いのに、続けられたその事実は、まだ、まだ抱えている。
ねぇ、神様、これは、罪ですか。
それとも、奇跡、と呼ぶべきなのでしょうか。
『行ってくる』
もう一度、そう言ったシヌは、軽いキスを額に残し、いつもの様にいつも通りに見下ろす駐車場で、手を振ってくれた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
朝の出来事を反芻し、ふと過った何かに集中力を欠け始めた。
『くっそっ・・・』
テギョンに短いメールでも連絡をしようかとそう思っても忙殺される中で時を見い出せず、電話をしようと思っても、思えば思う程つまらない邪魔というものがあるもので、纏まらない考えに少しでも話せれば、これも落ち着く筈なのにと募る苛立ちは、自然演技にも影響を出していた。
『おおいっ、カン・シヌ、今日はどうした!?いつものキレがないな・・・』
『・・・す、みません・・・』
こちらを窺うスタッフに謝ってはみてもいっそ、ここを放り出したい気分は、ザワザワと全身に広がっていた様で、今日は、止めにしようという監督の声にどこかほっとした。
『すみません・・・俺のせいで・・・』
『いや、そんな日もあるさ、撮影は好調なんだ、無理をすることも無い』
『そうそう、帰って愛妻に癒して貰えよ』
『いつまでも新婚気分で羨ましいぜ』
冗談とも本気ともそんな軽口でさえも今の俺には、耳障りで、今朝方のミニョの告白に感じた違和感のその何とも表せない気持ちの悪さを考え、ようやっとテギョンと話せる時間を手に入れていた。
★★★★★☆☆☆★★★★★
それを受け取ったのは、テジュンに誘われた庭でハウスキーパーが用意した昼食を食べようとしたまさにその時で、何の気も無しに開いた封筒の中にもう一つ封筒が入っていて、何だと思いながら手紙を読めば、それは、あの教会の神父からだった。そこに書かれたその内容は、全身を震えさせ、掴み損ねたティーカップに驚くふたりを残して自室に駆け込み、破れる程のショックに追い打ちをかけそうな電話にシヌの名に自分でも驚くほどの怒りをぶつけずにはいられなかった。
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