痛い位の陽の光に開けた目をまた閉じてそこに浮かんだ顔に昨夜の夢にハッとした。果たしてあれは、本当に夢だったのか。あの人が泣いている姿など到底想像がつかなくて、もう一人なら、彼なら暗がりで声を殺して泣いていたあの人なら、泣きながら私を抱いたあの人なら容易く想像は出来るのにどうしてもどうしても、でも、その顔は、悲しそうな顔は、何度も何度も見ていたことを思い出して、意地悪な事を言いながら笑って、その顔がその笑顔が歪む前にキスを強請った、あれは、いつの事だっただろう。
『ヨボ・・・』
眠った跡の残る隣にまだ温もりの残るそこに手を伸ばせば丁度ドアが開いた。
『チャルジャッソヨ(よく眠れた)サモニム、モーニングティはどうだい!?』
湯気の立つティーポットを持って、小さなお盆に乗せたカップを硝子のテーブルに置いた彼は、近づいて来て額にキスをくれた。
『疲れてないか!?』
ベッドに起き上る私の手を取って、そこに座った彼に肩を抱かれて降り続けるキスにくすぐったくなる肌に少しだけ困っていた。
『もっ、駄っ目でっす・・・お茶、くれるっ・・・って・・・』
『ん、これが終わったらね・・・』
少しづつ深く、一際優しくなるキスに捲りあがるパジャマの背中にそこを辿っていた掌が、ぶつかった先に腹部がざわついた。
『だ・・・』
『昨夜は途中だったからな・・・』
気が付けば、再び天井を仰いで、髪に触れる手の優しさに微睡(まどろ)みが押し寄せた。
『ぁ・・・そ・・・』
這い回る掌に目的がある事を知っていて、果たしてそこに一体何があるのか。どうしてこの人もあの人も教えてくれないのか。違うのは、そう、違うのは、この触れ方だ。
『ひャぁ・・・っんっふ』
『知らない方が良い』
『何!?ぁ・・・』
心を読む様に読まれた様にその手が私を追い込める。籠める想いは、その熱は、暑く、一瞬の発熱が、体を冷ます。
『ぅ・・・ん・・・』
『そう、そのまま、開いて・・・て』
どこを、なにを、そう聞きたいのに不安が混ざっても大きな期待もある。けれど、けれど、それは、たった一言で壊された。
★★★★★☆☆☆★★★★★
その一言がどれだけの威力を発揮するか、知らなかった訳じゃない。知っていて、考えていて、けれど、これ以上黙っているのも辛くて、お前は、お前は、きっともっと辛いだろうとそう思っても、その想いの欠片でも俺に痛みを分けて欲しくて、あいつなら、あいつならどうするだろう。黙っているのか。遠く離れたその身には、強がっているミニョのこの姿はどう映る。泣かせて傷つけて、不可抗力だとそれは、そうだろう。それを乗り越え、それを踏み台に俺達は、今日を手に入れた。どちらも、誰も彼も不幸なんてこれっぽっちも望んじゃいなくて。ただ、そうただ、愛し過ぎているだけなのだ。上手く伝わらない言葉のその感情の流す涙に意味などは無い。
『ミ、ニョ・・・』
『ど・・・・・・う、し・・・て・・・』
『知っている、か、か!?気付かない方がオカシイよな・・・これだけ毎日お前を抱いて、気付かない訳が無い・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・っ』
『ああ、動かない方が良い・・・俺は、お前を傷つけたくはないんだ・・・お前も・・・』
お前もその腹の子を殺したい訳じゃないだろう。こんな事でそうなるのかとそれは、運次第だと医者はそう言っていた。出来ない訳じゃない。したい訳じゃない。けど、けれど、お前の望みは何なんだ。俺に黙って、俺達に黙って、今、何を待っている。
『ミニョ・・・』
ゆったりと俺の首を掠めた手が、俺の髪を掻き揚げた。伏し目がちのどこを見ているともつかない瞼のその落ちて来る手の行方に穿った腰をそれ以上進められず、引けて行くミニョの腰に脚に体制を逆転された俺は、天井を仰いで落ちて来る髪と顔を見つめていた。
『・・・・・・悪・・・い女だ・・・と・・・悪い女に変えたのだと・・・貴方も彼もそう、言うの・・・』
頬に触れ包んだ両手が俺を上向かせながら唇を合わせて来た。
ああ、そう言った。
俺もあいつも。
お前は悪く無いと、お前は、ただ、そこにそうしていただけで、あいつの寝首を搔いた俺とお前を誘惑したあいつとお前は、お前は、最期まであがいてどちらの手も離さなかった。
『悪い女、ですか・・・た、だ・・・愛、しているの・・・貴方も彼も・・・・・・・・・あの子・・・も・・・・・・』
ポタリと落ちてきたその滴に、けれどしっかり見開かれたその瞳に強い、強く青く燃える意思を見出していた。
『そ、の、腹の子も・・・だろう!?』
腹に添えた手のその上で、俺を跨いだままのミニョは自分を拓き、そして沈み、その唇を艶やかに釣り上げた。釣り上がるそれに俺の血肉は一瞬で滾り、逆巻く血流は止め処なく、もう一度天地を変えた俺の頬をミニョの手が滑っていた。
『ま・・・だ・・・大、丈夫・・・』
『まだ!?』
『んっ・・・あの時と・・・同・・・じ・・・』
あの時が、テジュンの時だとそう理解しながら、微笑むミニョの最奥へ沈み込み、俺を抱く腕とその肌の熱さに理性を飛ばした。
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