『なっ、なんだーあれー』
『ふふ、振られたわねミナム』
『ヌナッ!』
『オッパ』
意気投合して去って行くシヌとテギョンを呆然と見送り、後方から聞こえた涼やかな声に驚いたミナムの前でソヨンの陰からミニョも顔を出していた。
『コ・ミニョ・・・お前、聞いて・・・』
『私が呼んだのよ。ミナム貴方も思ってもいない事を言うものではないわ。ミニョの事応援するんでしょう!?』
『うっ・・・お、そっれは・・・』
『オッパ!ヒョンニムの事虐めないでくださいっ!私は、私で頑張ってますっ!』
両の親指を立てるミニョをぶすくれて見ていたミナムは、腕を組んで顔を逸らした。
『ふっん、俺が何言ったって、お前ってば、ヒョンが一番だもんなっ!』
『あら、焼きもちなのねミナム。ミニョをさっさっと放っぽりだして家出ばかりしてた癖に』
ぎょっとしたミナムが体ごと振り向いた。
『何っでそんなことまで知ってるんだよっ!』
『バイト先でスカウトされたそうね。オーディションも受けてたそうだけど、認めて貰えなかったとか』
『んぁ、あぁ、マ・室長はバーに良く飲みに来てる客だったんだけど偶々いつも歌ってた奴が他の客
に酔い潰された時オーディションの事を知ってた奴が面白がってステージに上げてくれたんだ・・・』
『本当は、何になりたかった!?』
涼やかに笑ったソヨンは、ミニョを誘ってベンチに腰を下ろした。
『そんなの解んねーよっ!ただっ、俺っ、オンマに元気な姿見せられればっ・・・ってそれだけ・・・』
『貴方、大分前からファン・テギョンを尊敬してるでしょう!?ミニョの恋人として申し分ないと思ってる癖に』
何が言いたいんだとソヨンを睨み下ろしたミナムは、その笑顔を見て俯きかけた肩を掴まれた。
『下を向かないっ!言ったでしょう。空を見なさいって。アッパもオンマも空に居ると思いなさいって、親がいない事を悔しいと思うなら、ミナムの両親は、この大きな空だと思いなさいって教えたでしょう!』
『ヌ・・・ナ・・・』
『ミニョは、どちらかというと空を見てたから星が見えたのよね。まぁ、でも、私に言わせれば小さな星だけどね』
『む、オンニ酷いですっヒョンは大っきな星ですっ』
ぷっくり剥れたミニョはすぐに二ヘッと表情を崩し、呆れたソヨンがミナムの肩を抱いた。
『ったく、現金なものよね。ついこの間までその星に近づけないって散々泣いてたのにこの一ヶ月でまた距離が縮まったみたいじゃない・・・』
ソヨンの憎まれ口に更にヘラヘラするミニョをミナムが憎々しげに見下ろした。
『ヒョンはとりあえず今んトコどうでも良いよ・・・それよりシヌひょんっどうするつもっ!』
詰め寄りかけた首根っこをソヨンに掴まれたミナムの形相にミニョが蟹の様な横ばいをした。
『ひょひょんには、沢山沢山お世話かけました・・・やっぱり、いいっぱい尽くさなきゃで・・・す・・・』
上目で恐々返事をしながらキリッと親指を立てヘラッと笑ったミニョをミナムが噛みつきそうな形相で睨みつけた。
『はっぁ!?おっ前、それが、ヒョンを怒らせてる原因だっつーの何か言われなかったのかよっ・・・』
更に細められたミナムの目つきにミニョの肩はビクビク震えた。
『いっ言われましたよー、近づくなって言ってました・・・けど・・・ひょ、ひょんが近づいてくることは、何も言われてませんものっ』
強気にミナムに言い返したミニョはプイと横を向き、項垂れたミナムは、ソヨンに抱き付いた。
『なぁぁあぁヌナッ!俺の苦労が解る!?こーんな妹持って俺ってば幸せな訳!?』
『それはミナムのせいでしょう・・・貴方が何でもかんでも良い様にやってきた結果よね。出来ない事は無いんだって言いながら、でも、お前はシスターになるんだぞってそう言いくるめてたじゃない』
言葉に詰まるミナムに力強く頷いたミニョが風を起こしていた。
『だってさー、こいつに他の道なんて教えられなかったんだ!神様って素晴らしいですねって、神様と結婚するんですなんて言ってたんだ!そりゃ院長様はミニョに本当にそれで良いのかと何度も聞いてたけどそもそもなーんにも考えてないんだからっそれが全てだと思ってたんだぞ』
『そんな事ないわよ。ね、ミニョ。貴方はどうしてシスターになりたかったの!?』
『え!?えー・・・と・・・そ・・・』
言葉に詰まったミニョを振り返ったミナムがもじももじしながら泳ぐ視線を睨みつけた。
『チッ・・・言ってみろよっ』
『あぁ、ぇえっと、ですね・・・オンマもアッパも・・・もしかしたら・・・えっと、もしかしたらですけど・・・もう会えないかも・・・ってぇぇぇっとオッパは、オッパは、ずーっとずーっといつか会えるって言ってくれましたけど・・・もっ、もしかしたらってずっーと思ってってー!そ、でも、でも、院長様が誰でも神様の傍に行くからって!』
聞きながらどんどん細められるミナムの視線を避ける様にミニョは、俯いて、けれど意を決した様にグッとあげた顔は、満開の笑顔と一粒の涙を浮かべていた。
『神様の御傍にいれば、オンマもアッパもずっと見ててくれるかなって・・・オッパの気持ちなんて知らなかったです・・・し・・・』
『ほら、何も考えてない様で考えてるじゃない。放っておいても自分で解決するわよ』
もう大丈夫だと傍らに座り込んだソヨンにその涙を指先で拭われ、照れ笑いを返したミニョは、ドンと地団太を踏んだミナムを見上げた。
『うーー、俺ってば、絶対ミニョの育て方を絶対間違えたっ!』
頭を抱えて蹲るミナムを顔を見合わせたソヨンとミニョが見下ろした。
『育ててないでしょう』
『育てられてませんっ!』
同時に落ちてきた声をふくれっ面で見上げたミナムは、テギョンもシヌもソヨンもミニョも勝手にしろと叫んでいじけていた朝だった。