情熱的なつもりは無い。
かといって、シヌの様に秘めた感情で物事を見て楽しんでいる訳でも無いとテギョンは自負していた。
ただ、A.N.Jellを盾に脅されたのだ。
それは、紛れもない事実で、何かしら見返りを求められるギブアンドテイクは、巨額が動くだろう時点で想像の範疇で、スキャンダルのもみ消しとアフリカのたかがボランティア施設に連絡を付けるぐらいFグループの力を以てすれば容易いとそれなのに見つからないという回答を聞かされた時に駆け抜けた寒々しさは、驚愕を通り越してテギョン自身への怒りとなった。
ミニョとて軽く考えていただろう。
ちょっと行って帰って来るだけです。
待っててくださいね。
なんて、気持ちが通じたふたりにとっては、どこにでもあるやりとりで、まさかスキャンダルの動画を見られた上にタイミングの悪い電話で誤解もされて、失踪するなんて及びもつけない出来事で、締め付けられっぱなしの心臓にどれだけ大事かを痛感させられた。
ソヨンの存在など勿論知る由も無く、ひとりぼっちでまた隠れて泣いていたらなんて想像もしたし、もっと恐ろしい事も考えた。
一日も早く何でも良いから手がかりが欲しくて、会長相手に怒鳴ったのが不味かったと今更に後悔もあったが、突きつけられた契約書と脅し文句に否やはこれっぽっちも唱えられなかった。
「本人次第だ」
辛うじて、それだけ言ったテギョンにそれを頷かせるのがお前だと無言の圧力は、最早テギョンが考えていたより遥かに大変で、守らなければならないものはミニョだけでも無くなっていた。
『ったく、本当にお前は事故多発体だよっ!俺の気も知らないで・・・のほほんとしやがって・・・』
『もー、だから、何もしてないですってばぁ!ヒョンは、私にどうして欲しいのですかぁ・・・』
解らないと嘆くミニョを背中からぎゅうぎゅう抱きしめたテギョンが溜息を吐いた。
『断っても良いぞ・・・お前、まだ、先の事、何も考えてないんだろう!?』
『考えて無い訳じゃないですけど、施設に帰るのは反対なのでしょう!?』
『ああ、まぁな・・・会いに行けない距離じゃないけど・・・今は・・・それは、嫌だな・・・』
僅かに甘えの籠る響きに現金なはしゃぎ声が返ったが、一瞬でテギョンの眉間に皺も戻っていた。
『わたしと一緒に居たいってことでっ・・・』
『チッ・・・お前と一緒にいると調子が狂う・・・』
『ヒョン・・・いひゃい・・・』
振り返ったミニョの頬をこれでもかと引っ張りながらテギョンはニヤついた。
『痛くしてるんだから当然だ!俺の痛みも感じられる様になれっ!』
『オッパじゃないんだからしょんなの無理ですっ』
『何でここでミナムだよっ』
『オッパは、私が痛いと気が付くんですっ』
『双子の以心伝心なんか知るかっ!お前は俺が好きなんだから俺の事だけ考えてれば良っ・・・』
ぎょっとして離した赤らむ頬を撫でながら恥ずかしそうに俯いているミニョを呆然と見ていたテギョンだった。
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