『連絡付いた!?』
オープンカフェの一角でミナムの手元を覗き込んでジェラートを舐め乍らジェルミが聞いていた。
『ああ、一応ミニョには、全部話をしたらしいけど、どうするかは決まらないみたいだな・・・』
『ふぅん・・・俺的には、ミニョとまた仕事出来るの嬉しいけど、ミナムはどうなの!?この仕事大変だって思うんだろう!?』
『まぁな、俺は、やりたくて決めたから、マ・室長に言われるまま整形もしたけど、ミニョにそれをさせるとか言われたら、ちょーっと引っかかるものがあるよなぁ・・・』
『基が良いから整形は必要ないと思うし、今時普通だけど、売る為のイメージ次第で、あれしろこれしろって言われる事も無いとは言えないからねぇ・・・にしてもさ、ヒョンとFグループってどういう関係なんだろう!?』
『仕事じゃなけりゃ親戚かなんかだろう!?爺さんもヒョンもそこんとこは教えてくれなかったな・・・』
カチカチ返信を続けるミナムとジェルミの憶測飛び交う会話を聞きながら少し離れた席に座っていたシヌは、ソヨンに聞いていた。
『本当に、どういう関係なんです!?あの娘、ユジンが、Fグループ会長の孫娘で、テギョンの妹だというなら、テギョンも会長の孫って事ですよね!?』
知っているだろうという確信の籠もった声音にソヨンが笑って答えていた。
『正確には、違うわ。ファン・テギョンと会長に血の繋がりは無いもの。ビジネスライクで付き合っているというのが本当。でも、孫の様に可愛がっているのも本当ね。何より、ファン・テギョンの才能に惚れているというのが真実かしら』
シヌを見ることも無く、足を組み変えたソヨンが続けた。
『ファン・ギョンセに会ったことはあって!?』
『いぃえ、テギョンの父親だという事は知っていますが、直接は・・・』
アン社長の事ある毎の自慢のひとつでもあるファン・テギョンのステータス。
その才能が、父親譲りであるというものは、正直、耳にタコだと苦笑いを浮かべたシヌは、コーヒーカップに口をつけた。
『本当に凄いのは、ファン・ギョンセという人物なのよ・・・あの会長に生涯の支援を約束させて、息子の面倒まで見させている・・・ファン・テギョンに才能が無いとは言わないけれど、ギョンセssiのそれとは、まだまだ比べられるものではないわ。若いというのも理由の一つだけど、彼の年齢には、国際コンクールを総なめにした程の人だもの。芸術に正解は無いけれど、どれだけの成功を収められるかは、スポンサーが決めるというのは、貴方も知っているでしょう!?貴方達の仕事だってペンの数も決め手だけど、移り気なペンよりもスポンサーが大事でしょう!?』
『・・・夢の無い話ですね』
『夢を売るのが仕事だって、ファン・テギョンは良く理解しているわね。孤高なイメージの自分を売りものにする為に何をすべきかを良く解っている。でも、彼だってひとりの人間だもの。恋をして、その恋を恋人を守りたいと思ったから背に腹は代えられなくて支援を頼んだのよ。相手がユジンだったのも災難だったのね・・・ミナムとミニョが入れ替わっていた事実まで話をしてね・・・』
それが、今回の契約に至る核であり、ミナムとして僅かでも活動していたのなら出来ない事ではあるまいとそれともこれを公にしてコ・ミナム諸共A.N.Jellを潰されたいかと脅されたテギョンの顔を思い浮かべていたソヨンは、派手な物音で驚きを隠せなかったシヌを見た。
『あら、これは、知らなかったの!?この仕事を依頼された時に貰った資料に書かれていたし、ミナムは知っていたからてっきり貴方も知っていると思っていたのに・・・』
『何を・・・』
『アン社長が雑誌社や、テレビ局の映像や写真、全てもみ消したのは知ってる!?ミニョがミナムの身代わりをしていた一か月に関わった仕事の資料を全部片付けさせて、ミニョが歌った音源も全部差し替えさせたわ。双子だけど、あのふたりには、決定的な違いがあるから、残っていては、後々困る事が起こらないとも限らないし、素人目には解らなくても、人をね・・・私の様に人を見て観察している人間には、気付かれるかもしれないから、ミニョを表舞台に出すなら、叩かれるのを覚悟しなきゃならないし、善意も悪意もどこからどんな形でやってくるかなんて判らないんだから守るなら、守りたいなら徹底的にやらなきゃね』
『そ、っれ、テギョンの・・・覚、悟!?』
『そうよ。自分をそこまで殺せるのかと会長は、彼に聞いたそうよ。そこまで大切なのかとね・・・自分の母親を引き合いに出されて、反論するかと思ったけどされなかったから信じる事にしたそうよ』
『テギョンの母親・・・!?』
『ファン・テギョンの出生の秘密は、噂でも何でも無いでしょ。事実に脚色をされてるだけ。父親は周知の人なんだから、そっちのロマンスを追いかければ自ずと暴かれてても良いのに詮索されないのはどうしてだと思ってる!?』
ギョンセとファランのロマンスは、短く、けれど、その短時に赤ん坊を授かり、移り気なファランの気持ちは、既に余所にありながらもギョンセは、テギョンを認知して、その一切の後援をしたのは、他でも無いFグループの会長だ。
ギョンセにスキャンダルを呼び込む訳にはいかなかった。
グループ存続の為にだ。
情けは人の為ならずだ。
と、押し黙ったソヨンの前で会長は肩まで揺らして豪快に笑っていた。
『ったく、よく言うわよ。あの爺。自分の恩恵は、いずれ自分に還るってことじゃない。善行を笠に着たのが癪に障ったけど、間違ってないから何も言えなかったわ。私もまだまだね・・・』
ぼやきに変わったソヨンの話を聞きながら、自分の見ているテギョンは、そんなに熱い男だったのかと考えていたシヌだった。