連なる円を幾つも作りながら足を運んでいたシヌは、後方で鈴生りの音を立てる植物達を振り返って微笑み、立ち止まって背中に頭が付くほど首を折り曲げていた。
『師匠―、戻りましたよー、一服しませんかー』
遥か、遥か上空へ向かって、大声で叫び、また歩き出した。
『ったく、傍観者でいるとか何とか仰っていた癖にあの娘は、そんなに可愛かったのですかね』
ぼやきながら天板に一本足の台座の前で立ち止まったシヌは、指を鳴らし、何も無い空間に突如として現れたお茶の道具を手に取って、トプトプと湯を注ぎ始めた。
『そもそも師匠が、俺とテギョンに賭けをするよう仕向けたんでしょう・・・どちらが後継者足り得るかとか何とか尤もらしく・・・・・・睡蓮に人の体までお与えになったとは・・・』
『おかしな事を訊ねられたからな』
パッと現れた白髪の男が、シヌの前に腰を下ろし、差し出された湯飲みを受け取った。
『あの花は、生涯開かせない予定だったでしょう!?』
『ああ、だが、テギョンのお蔭で情を持ってしまった』
お茶を含んだ老人は、物足りなさそうに湯を見つめ、指を鳴らすと花弁が一欠けら浮いたそれを満足そうに口にした。
『何百年くらい話相手にしていましたっけ!?』
『さぁな、最初は、閉じておるを愛でその蕾の膨らみ行くが美しいなどと戯れておったが、そのうち、あれの周りの花は消え行くのに何故あれは開かず消えぬのかと聞いてきおったな』
『なんと答えられたのです』
『全てが開き消えるでは、命の均衡は取れぬと答えたさ』
『納得しなかったのですね・・・』
シヌも腰を下ろしたが、掴んだ湯飲みに浮き沈む花弁に顔を顰めた。
『お前だって同じ質問をされて、本質を見極められぬのかと答えたであろう』
ひっくり返して湯を捨てたシヌは、不満そうな老人を睨んで新しいお茶を注ぎ始めた。
『ええ・・・だから、師匠に地上に落とされたんですけどね』
『お前もテギョンも儂の邪魔ばかりして煩かったからな・・・それで、少しは、見極められたのか』
『自棄になったものは、愛おしいという事は知りましたよ』
『成長出来たな』
『したから戻されたのでしょう!?俺の力の暴走も師匠のせいでしょう!?封じてた筈なのにっ』
やけに紅潮して物申すシヌを老人が笑い、暫くして背けられた顔は、照れていた。
『まさかあの睡蓮にあれ程の力があるとは測れなかったからな・・・長い時の中でテギョンの力を吸収したのであろう』
『っまさに魔女でしたよ』
自棄を煽る老人のにやけた笑顔をシヌもまた笑って受け流し、新たなお茶を注ぎ始めた。
『まぁ、暫くは、あの部屋から出て来ることはないさ』
『テギョンも閉じ込めたままですか』
『ああ、それで構わぬだろう・・・戻ろうと思えば戻れた筈だ・・・なんだかんだ言うてもテギョンの奴、力だけはあるのだ・・・だからこそ何度も転生を繰り返せたのだぞ・・・いつでもこちらで封じた記憶の壁を破壊することは可能だったのだ。ミニョに遠慮でもしたのであろう・・・』
『転生はテギョンのせいなのですね』
遠く、その先の霞に浮き沈む扉が現れ、やがて消えて行った。
『お前の転生は、儂のお蔭だ』
『それは、監視とミニョの力を相殺させる為でしょう・・・死に行く時の願いの力が大き過ぎた筈です』
『そうだ。お前の力で中和出来ると初めの死で知った』
『結局、俺もテギョンも師匠の手の平で踊っていたってことですからね』
『踊れぬ愚か者もおるのだ光栄に思え』
考え込むシヌの前で老人がまた指を鳴らし、湯のみに視線を落したシヌがその名を呼んだ。
『・・・ミナムです・・・ね』
『あいつは失敗だったな・・・同じ花の残りで作ったからか、思うように動かなかった』
『知っていたのでしょう・・・師匠の正体』
不敵に笑うミナムの残像をシヌが飲み干した。
『そうらしい・・・北へ追いやった時に終わるのかと聞いて来おった』
『ミニョの痣がミナムにも付いていたのは!?』
『それだけがどうにも解せぬ・・・あれも力を持っていたのか・・・』
『最初のミニョと似たような性格でしたよ・・・自信に溢れて一国の王に相応しかった』
『まぁ、ミニョの様に己の為に力を使う奴ではない様だから放っておいても大丈夫だろう』
何度目かの指の先に遊戯道具を浮かべて微笑む老人にシヌが頷いた。
『戻れない訳はありませんよね』
『儂の力の及ぶ範囲にはいなかったが、あいつも生を終えて死んだのは確認しているから大丈夫だろう』
あっけらかんと話す老人にぎょっとしたシヌが抗議を始め、時の無いその場所で、延々と同じ話が繰り返されたのだった。
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