階段の踊り場で、シヌと談笑していたルネッタと顔を見合わせたソヨンは、階下に視線を送り、それに答える様にルネッタが、足早に降りて行った。
『彼女、恋人がいるんですね』
駆ける程ではなくとも上下する肩に滲んだ嬉しさを見つけたシヌが苦笑を漏らし、ソヨンに手を差し出した。
『何か聞いたの!?』
ハイヒールの爪先に纏わりついた裾を妨碍(ぼうげ=邪魔)とばかりに捌いてその手を取ったソヨンは、シヌを会場へ促した。
『ええ、恋する者達の言い訳について・・・』
『ああ、取捨選択の話ね・・・でもそれって、貴方の役に立つのかしら!?』
辺りを見回しながら互いに小声で話すふたりは、自然と人気の無い壁際を目指した。
『さぁ、それは・・・前の撮影の時に貴女が仰ったんです。無理なものはさっさと諦めろ・・・と』
『そうだったかしら!?』
『ええ、だから、俺も言ったでしょう。諦めるのを諦めると・・・それに俺、コ・ミナムを演じていた女の子には、きっぱり失恋をしたんです。新しい恋は、あがいてみても良いじゃないですか!?』
『新・・・同じ相手じゃない・・・・・・』
ウェイターを呼び止めグラスをふたつ受け取ったソヨンの呆れた表情の前で、シヌがそれを搗ち合わせた。
『相手も結構な意地っ張りだけど貴方も負けてないのね・・・もう一人も意外と・・・そう、よね・・・・・・』
『ええ、もう何度も牽制されましたよ・・・以前は、俺のテリトリーだったんですけどね』
『ふふ、立場が変わってしまったのね。でも・・・それでも良いのかぁ・・・・・・』
『ミナムには黙っていてくださいね』
『ミナムよりもその彼女の方が五月蠅いんでしょう!?ユ・ヘイだっけ!?』
『芸能界ってね噂されてこそなんです・・・ま、それが困りものですね』
『手近な処で遊ぶからよ』
『俺も一応、有名人なんで、同じリスク背負ってる人じゃないと無理でしょう。もしくは貴女の紹介』
『貴方の事を好きなら黙っているわよ・・・』
『それが困るんですよ。俺は、どうしたって答えてあげられない』
『・・・今は、まだ・・・ってだけよ』
『ふ、いつか、ちゃんと本物を見つけられたら祝ってくださいよ!俺にこんな事を勧めた責任もとってください!』
『人聞き悪いわね!苦しいのは一時だってキスハグしただけよ。それもあいさつ程度だわ・・・』
『人肌って気持ち良いですよねっ』
ミニョを好きなのかと出会って数時間でソヨンに見抜かれた。
それも一度は、諦めたことまでも、それでも諦めきれず、でも、テギョンは、そこにいて、見なければ
見えなければどんなに良いだろうと思っても言い聞かせてもそう簡単に時も心も進まなくて。
他人に言うのは簡単だ。
ミニョにもそう言って聞かせたのだから。
しかし、いざ、自分がその立場になった時、宿舎に帰るのが躊躇われた。
『暫くは、仕事に専念しますよ。そうすれば、いずれ時が忘れさせてくれるでしょう!?』
シヌの本音交じりの冗談を聞きながら痛々しい顔をしていたソヨンだった。